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日日是労働セレクト159
日日是労働セレクト156
 以下に、「日日是労働」のダイジェスト版・第156弾を掲げます。直ぐ下の記事がこの「日日是労働セレク
ト156」の中では最も新しい日付のものです。つまり、読み進めるほど、古い記事になります。ただし、いち
いち明示しませんが、後日に行った加筆訂正を含んだ日があります。日誌ですから、少なくとも後日に加筆
することはご法度であるはずですが、「某月某日」ということもあり、記事内容の充実を優先させました。
ご了承ください。また、頑張って「辛口」の批評を展開しようと務めておりますので、本文に何かと読者の
お気に召さない表現等が散見されるやもしれませんが、特定の個人、団体等を誹謗中傷する目的は一切あり
ませんので、どうぞご理解ください。なお、ご感想は、muto@kochi-u.ac.jp までお寄せ下さい。


 某月某日

 Youtubeで、邦画の『猫忍』(監督:渡辺武、「猫忍」製作委員会、2017年)を観た。何となく不思議な物
語で、それなりに面白かった。『猫侍』(監督:山口義高、猫侍制作委員会、2014年)〔筆者、未見〕の続
篇に相当するが、喜劇タッチの時代劇は肩が凝らなくてよい。
 物語を確認しておこう。例によって、<Movie Walker>のお世話になる。執筆者に感謝したい。なお、一部
改変したが、ご寛恕を乞う。

   〔解説〕

  渡辺武監督はじめ『猫侍』のスタッフが再集結し、猫を通じて成長する忍者を活写する時代劇コメ
 ディ。ある屋敷に忍び込んだ若手忍者の陽炎太は、生き別れた父に似た猫と遭遇。父が秘伝の術で猫
 に化けたと思い、抜忍となって元の姿に戻す手立てを探す旅に出る。愛を知らずに育った主人公の忍
 者を『セーラー服と機関銃 -卒業-』の大野拓朗が演じる。テーマパーク日光江戸村の全面協力のもと
 撮影された。映画公開に先駆け、テレビドラマ版を2017年1-3月に放映。

   〔あらすじ〕

  霧生家の若手忍者・久世陽炎太(大野拓朗)は、鼻の赤い剣山(船越英一郎)という伝説の忍者を
 父に持つが、10歳の時に生き別れとなり、以来愛を知らずに生きてきた。ある屋敷に忍び込んだとこ
 ろ、父とよく似たふっくらとした猫(金時)に遭遇し、父が秘伝・変化の術で化けていると思い込ん
 でしまう陽炎太。父をもとの姿に戻すため抜忍となって秘伝の巻物を探す旅に出た彼に、霧生忍者の
 追手が迫る。

 他に、佐藤江梨子(紅葉)、藤本泉(燕)、渋川清彦(青目)、鈴木福(久世陽炎太=幼少期)、ふせえ
り(お絹=団子宿の女中)、永澤俊矢(迅雷=剣山の旧友)、柄本明(苅谷崎=猫見屋)、麿赤兒(桂木=
霧生の里の首領)、森本レオ(ナレーター)などが出演している。
 変化の術の極意は「人は変わる」というものだった。このようなアンチ・クライマックスは、この手の話
につきもので、観る者を励ます力があると思った。平凡な教えの中に真理がある見本であると言えよう。


 某月某日

 Youtubeで、邦画の『南の島に雪が降る』(監督:水島総、田崎真珠=リバース、1995年)を観た。当該映  
画はリメイク版であるが、最初に映画化された『南の島に雪が降る』(監督:久松静児、東宝、1961年)は
未見である。原作は名優の加東大介、1961年版では、主人公の加藤軍曹を演じている。さて、当該作品であ
るが、2013年8月10日にTVで放映したものをYoutubeで流しているらしい。監督の水島総(日本文化チャン
ネル桜代表)が冒頭で解説を務めている。
 作品の劈頭に文字が浮かぶ。以下に、写し取ってみよう。

   大東亜戦争において
   日本は西部ニューギニアに
   四万人、東部ニューギニアに十六万人の
   将兵を送った
   だが、敗戦後祖国に生還し
   たのは、二十万の兵のうち、
   一万七千人だと言われている。
   九割以上の将兵が失われた
   戦場は、他のどこにもない
 
 さらに、赤字で次のような文字が現われる。

   ジャワの極楽 ビルマの地獄 死んでも帰れぬニューギニア

 さて、ここからはフィクションである。

   平成七年、
   西ニューギニアのジャングルで、
   日本兵が生存しているという噂が、
   日本国内の一部で流れていた。
   これは「戦後日本」に戻らなかった
   日本兵の物語である。

 物語を確認しておこう。例によって、<Movie Walker>のお世話になる。執筆者に感謝したい。なお、一部
改変したが、ご海容いただきたい。

   〔解説〕

  戦時中のニューギニアで、演芸分隊に任命された男が出会う苛酷な戦争体験を綴ったドラマ。監督・
 製作・脚色は『奇跡の山 さよなら、名犬平治』の水島総。主演は『螢II 赤い傷痕』の高橋和也。
 戦後50年記念作品。

   〔あらすじ〕

  1995年、ニューギニアのジャングルに旧日本兵の生き残りがいるという噂がたった。「ジャワの極
 楽、ビルマの地獄、死んでも帰れぬニューギニア」と言われたほど苛酷な戦地だったニューギニアか
 ら生還した叶谷(久保恵三郎)は、現在は車椅子の生活を強いられながらも、それが戦時中世話にな
 った須藤軍曹(菅原文太)であることを信じ、娘の知美(烏丸せつこ)らを伴ってニューギニアへ赴
 く。噂通り日本兵は存在し、それは須藤だった。ところが同行した現地兵の勘違いから重症を負って
 しまった須藤は、迎えのヘリコプターを待つ間、叶谷にどうして自分が日本へ戻らなかったのか、50
 年前の出来事を語り始めるのであった。1945年、マヤサルミ戦線にいた衛生兵・須藤(高橋和也)は
 役者だった経歴を買われ、兵隊の慰問と士気高揚を目的とする演芸分隊の編成を命じられる。早速オ
 ーディションが行われ、それぞれに才能のある面々が集合。“マヤサルミ歌舞伎座”と名付けられた
 小屋も建てられ、一座は柿落とし公演の演目『瞼の母』の稽古を開始するのであった。そして初日、
 女形や元歌手の登場もあって芝居は大成功のうちに幕を閉じ、演芸分隊はまたたくまに人気者となる。
 しかし、須藤は死を目前に控えた兵士たちに、生きる喜びや故郷や家族のことを想い出させる芝居を
 みせることに矛盾を感じ始めるのだった。そんな矛盾に悩みながらも芝居を続ける須藤に、演芸分隊
 解散の命令が下る。戦況が悪化してきたのだ。須藤たちは最後の芝居で、雪の出る芝居が見たいと言
 って死んでいった白根伍長(西村和彦)との約束を果たすため、舞台いっぱいに大雪を降らせる。偶
 然その時の観客は東北地方出身の部隊で、涙の公演となるのだった。翌日、マヤサルミ歌舞伎座は演
 芸分隊の手によって焼却された。この時、皮肉にも空から雪の如くアメリカ兵の撒いた終戦を知らせ
 るビラが降って来る。ところが数日後、須藤は、死んでいった兵隊たちの霊を残して日本へは帰還出
 来ないと言う村井中尉(根津甚八)と対峙することになった。兵隊たちを死に追いやった責任を取る
 ために司令部将官全員の殺害と自決を決行すると、追い詰められたように計画を話す村井中尉を阻止
 しようと、須藤は銃口を村井中尉に向けた。しかし、須藤の説得に気圧された村井は自ら命を絶って
 しまう。それを見た須藤は、死んでいった仲間たちの霊を慰めるために、一人この地に残ることを決
 意したのだった。全てを語り終わった須藤は叶谷と手を取り合いながら、まだ来ぬヘリコプターを待
 ちながらそっと息を引き取った。

 他に、趙方豪(菅原軍曹)、菅原加織(叶谷文次一等兵)、風間杜夫(東北出身の兵隊)、佐野史郎(赤
嶺少尉)、田村貴彦(前川一等兵)、甲本雅裕(日沼一等兵)、西沢仁(小原上等兵)、佐久間哲(斎藤上
等兵)、伊藤正之(塩昌上等兵)、徳井優(青戸兵長)、佐藤淳(今川一等兵=コロンビアレコードの歌手
の設定)、神戸浩(白石上等兵)などが出演している。
 アジア・太平洋戦争に関して、戦無派の小生があれこれコメントを述べても始まらないが、「さもこうだ
ろうな」といった思いで鑑賞した。もっとも、故郷喪失者ではない、つまり故郷など元々ない小生などは、
所詮「ふるさとの味」は分からないのである。なお、「酋長の娘」(作詞・作曲・唄:石田一松、1930年)
が盛んに流れる。「わたしのラバさん/酋長の娘/色は黒いが/南洋じゃ美人」で始まる歌であるが、もち
ろん小学生のころから知っていた。ただし、「ラバさん」を「騾馬さん」と捉えていた節がある。むろん、
「ラヴァ(lover)=恋人」という意味である。


 某月某日

 上映会で1本、DVDで3本の邦画を観たので報告しよう。1本目は、高知市立自由民権記念館で行われた、  
「映画と講演のつどい」(2018年12月15日〔土〕)の上映会で観た『葛根廟事件の証言』(監督:田上龍一、
インディペンデント、2017年)である。公式サイトに作品解説があるので、それを引用させていただく。一
部改変したが、ご寛恕を乞う。

   〔解説〕

  太平洋戦争が終結する前日の昭和20(1945)年8月14日、旧満州(現中国東北部)から引揚げ避難中
 の日本人の一団が、ラマ教寺院「葛根廟」(内モンゴル自治区)付近で、旧ソ連軍の戦車隊の襲撃に
 あい、1,000人以上が死亡した。生存者は百数十人にすぎないとされ、犠牲者の多くは女性と子供だっ
 た。「葛根廟事件」は、日本敗戦の混乱時に満州で日本人が遭遇した惨劇の中でも、最も犠牲者が多
 いものだったといわれている。
  あの日、満州で何があったのか。事件の生存者、関係者のインタビューで構成したドキュメンタリ
 ー映画。
  福岡インディペンデント映画祭2018「ドキュメンタリー部門最優秀作品賞」受賞。60分短縮版が、
 第20回ゆふいん文化・記録映画祭で、コンペティション部門最高賞の「第10回 松川賞」受賞、「映
 文連アワード2017 企画特別賞」受賞、第23回ながおか映画祭で上映。

 詳細は<ウィキペディア>に記事があるので、興味のある人はそちらの方を参照していただきたい。小生の
鑑賞後の印象では、どこまでソ連軍にやられたのかは、しょせん「藪の中」ではないか、というものだった。
しかしながら、たしかにそういうことがあった蓋然性は高いのだろう。それでも、ソ連軍の戦車と歩兵の機
関銃によって殺された者がどれくらいいたかは、やはり判然としない。証言にもあったが、自決した人も相
当数いたのではないだろうか。今となっては風化が著しいが、それでも記録映画として残しておく意味はあ
ると思われる。監督の田上龍一の情熱によって製作された映画というわけだが、彼の話を聞いていると、何
とかしてこの事件の詳細を伝えたいという気持は確実に伝わってきた。
 2本目は、『娼年』(監督:三浦大輔、映画「娼年」製作委員会〔ファントム・フィルム=ハピネット=
ホリプロ=集英社〕、2017年)である。調べてみると、石田衣良の原作は2009年に読んでいる。内容はほと
んど覚えていないので、映画とどういう風に違うのかは分からない。それでも、映画的な面白さはけっこう
あったと記しておこう。
 物語を確認しておこう。例によって、<Movie Walker>のお世話になる。執筆者に感謝したい。なお、一部
改変したが、ご寛恕を乞う。

   〔解説〕

  直木賞候補になった石田衣良の恋愛小説を、2016年8月の舞台化に引き続き、主演・松坂桃李、監督・
 三浦大輔のコンビで映画化したセンセーショナルなラブストーリー。会員制ボーイズクラブの娼夫と
 なった20歳の大学生と、彼が出会う女性たちとの物語がつづられる。主人公を誘うボーイズクラブの
 オーナーを元宝塚歌劇団の真飛聖が演じる。

   〔あらすじ〕

  大学生の森中領(松坂桃李)は、大学生活に飽きバーでのバイトに明け暮れ、無気力な生活を送っ
 ていた。ある日、ホストクラブで働いている中学校の同級生・田島進也(小柳友)が、客の御堂静香
 (真飛聖)を連れ立ち領の勤めるバーにやってくる。女や恋愛に興味がないと言い放つ領。そんな彼
 に、静香はオーナーをしている秘密の会員制ボーイズクラブ『パッション』に入るための試験を受け
 させる。戸惑いつつも娼夫として仕事をするうちに、女性ひとりひとりの中に隠されている欲望の不
 思議さや奥深さに気づき、やりがいを見出すように。そして彼を買った女性たちは、どんな女性の欲
 望も引き出す彼と時間を過ごすことにより、自分を解放していく。やがて静香に対しても思いを寄せ
 るようになるが……。

 他に、冨手麻妙(咲良=静香の娘)、猪塚健太(平戸東=ボーイズクラブ「パッション」のナンバーワン)、
桜井ユキ(恵=領の通う光和大学の学生)、馬渕英里何(イツキ=領の客のひとり)、荻野友里(主婦=同)、
佐々木心音(紀子=泉川の妻)、大谷麻衣(ヒロミ=領の初めての客)、階戸瑠李(領と最初のシーンでベ
ッドをともにする女)、西岡徳馬(泉川=領の客)、江波杏子(老女=同)などが出演している。
 東京の地名である、下北沢、赤坂、麹町、銀座、渋谷、円山町、表参道、高田馬場、六本木、鶯谷、新宿
が登場する。なお、プラトーンの『パイドロス』に言及するが、何か取って付けたような感じがした。
 3本目は、『最低。』(監督:瀬々敬久、KADOKAWA、2017年)である。この映画は、AV女優が主人公で
あるが、物語が錯綜していて、なかなか全体が見えなかった。もっとも、みっつの物語が絡み合って、現代
を浮かび上がらせる工夫はなかなかのものだと思った。
 この映画も物語を確認しておこう。以下、上と同様である。

   〔解説〕

  AV女優・紗倉まなによる同名小説を『64 ロクヨン』の瀬々敬久監督が映画化。日常に耐えきれず新
 しい世界の扉を開く主婦・美穂、誇りを持ちながら仕事を淡々とこなす人気AV女優の彩乃、奔放な母
 親に振り回される女子高生・あやこという3人の女たちの運命を綴る。出演は『今日という日が最後
 なら、』の森口彩乃、『フィギュアなあなた』の佐々木心音、TV『霊魔の街』の山田愛奈、『下衆の
 愛』の忍成修吾、『ろんぐ・ぐっどばい 探偵 古井栗之助』の森岡龍、『ハローグッバイ』の渡辺
 真起子、『まなざし』の根岸季衣、『映画 深夜食堂』の高岡早紀。撮影を『ディストラクション・
 ベイビーズ』の佐々木靖之、音楽を『マリアの乳房』の入江陽が手がける。

   〔あらすじ〕

  34歳の主婦・橋口美穂(森口彩乃)は、何不自由なく暮らしているもののどこか満たされない日々
 を過ごしている。夫の健太(忍成修吾)は何事にも無関心で、子どもが欲しいと提案しても仕事の忙
 しさを理由に断られる。最近は病に伏した父を姉の美沙(江口のりこ)と交代で見舞うため、家と病
 院を往復する毎日。このままずっと同じような生活が続くのだろうか……。そんな空虚な思いを埋め
 るため、美穂はAV出演を決意する。今までずっと安定志向だった自分の人生をひょっとしたら変える
 ことができるかもしれない。そう信じて彼女は新しい世界の扉を開けるのだが……。17歳の本間あや
 こ(山田愛奈)は、小さな喫茶店を営む祖母・知恵(根岸季衣)、東京から出戻った母・孝子(高岡
 早紀)と3人で寂れた海辺の町で暮らしている。人と接するのが苦手で、クラスメイトとも打ち解け
 ることができないあやこは、自分の部屋でキャンバスに向かい絵を描いているときだけが唯一心休ま
 る時間であった。だがある日、登校すると、あやこの母親が元AV女優だという噂が周囲に広がってい
 た。定職にも就かず、自由奔放な生活を送る孝子は田舎町では目立つ存在。あやこはそんな母親との
 距離感をいまだにつかめずにいたが、思い切って孝子に真相を確かめようとする……。彩乃(佐々木
 心音)、25歳。専門学校に通うため、そりが合わない家族から逃げるように上京してきたが、軽い気
 持ちでAVに出演。その後人気女優となり、多忙な毎日を送っている。仕事に後ろめたさはなく、むし
 ろ天職かもしれないと思っていた。そんなある日、オカルト雑誌『月刊ゴブリン』の編集者である日
 比野(森岡龍)という頼りなさげな男とバーで意気投合した彩乃は、そのまま一緒に朝を迎えるが、彼    
 女の仕事を知った母親の泉美(渡辺真起子)が突然現れ、穏やかな幸福感が一気に吹き飛ぶ。AVの仕
 事をやめるよう説得する母を置き去りにして仕事へと向かう彩乃だったが、撮影中に意識を失い、そ
 のまま病院へ運ばれる……。

 他に、諏訪太朗(青木=Cafe Chieの客)などが出演している。あやこの好きな画家は、ズジスワフ・ベク
シンスキーだが、ポーランドの画家らしい。<ウィキペディア>に「主に死、絶望、破損、廃退、廃墟、終焉
などをモチーフに扱い、不気味さや残酷さと同時に荘厳な美しさを感じさせる画風が特徴」とあるように、
何やら不気味な絵を描く由。あやこの心情をきっと捉えて離さなかったのであろう。彼女の画く絵も、この
ベクシンスキーの影響を受けていることは明らかである。
 4本目は、『東京公園』(監督:青山真治、「東京公園」製作委員会〔デイライツ=ショウゲート=アミ
ューズ=日活=メモリーラック=Yahoo! JAPAN=博報堂DYメディアパートナーズ〕、2011年)である。青山
監督の映画は、以下のように10本観ているが、小生の鑑賞済みの映画の中では、一番明るい映画ではなかろ
うか。なにしろ彼の作る映画といったら、とても暗いものが多かったからである。

  『Helpless』、監督:青山真治、WOWOW=バンダイビジュアル、1996年。
  『チンピラ』、監督:青山真治、タキコーポレーション=円谷映像、1996年。
  『冷たい血』、監督:青山真治、BRANDISH=タキコーポレーション=東北新社、1997年。
  『EUREKA〈ユリイカ〉』、監督:青山真治、電通=IMAGICA=サンセントシネマワークス=東京テアトル、
   2000年。
  『月の砂漠』、監督:青山真治、WOWOW=ギャガ・コミュニケーションズ=ランブルフィッシュ=吉本
   興業=レントラックジャパン=サイバーエージェント、2001年。
  『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』、監督:青山真治、TOKYO FM=バップ=ランブルフィッシュ、
   2005年。
  『レイクサイド マーダーケース(THE LAKESIDE MURDER CASE)』、監督:青山真治、フジテレビジョン、
   2005年。
  『サッド ヴァケイション』、監督:青山真治、間宮運送組合〔stylejam=Be-Wild=Geneon〕、2007年。
  『東京公園』、監督:青山真治、「東京公園」製作委員会〔デイライツ=ショウゲート=アミューズ=
   日活=メモリーラック=Yahoo! JAPAN=博報堂DYメディアパートナーズ〕、2011年。
  『共喰い』、監督:青山真治、『共喰い』製作委員会〔スタイルジャム=ミッドシップ=ギーク
   ピクチュアズ=アミューズソフトエンタテインメント=TOKYO MX=ビターズ・エンド〕、2013年。

 この作品も、物語を確認しておこう。以下、上と同様である。

   〔解説〕

  小路幸也の青春小説『東京公園』を、『サッドヴァケイション』以来4年ぶりの長編監督作となる
 青山真治が映画化。ある出来事をきっかけにして、徐々に成長していく主人公を三浦春馬が見事に体
 現。彼の幼なじみを榮倉奈々、血のつながっていない姉を小西真奈美、写真を撮られる謎の女性を井
 川遥が演じ、切なくて優しいドラマを見せる。

   〔あらすじ〕

  東京の公園を訪れては家族写真を撮り続けている大学生の志田光司(三浦春馬)は、幼い頃に亡く
 した母親の影響でカメラマンを目指していた。ある日、一人の男性から「いつも娘を連れてあちこち
 の公園を散歩している彼女を尾行して、写真を撮って欲しい」という突然の依頼が舞い込む。依頼主
 である歯科医の初島隆史(高橋洋)の態度に光司は迷いを感じながらも、なかば強制されるように依
 頼を受ける。光司の家には、親友で同居人の高井ヒロ(染谷将太)がおり、彼にだけはこの依頼内容
 の話をしようとするが、どこか気が咎めてすべてを話す気にはなれない。ヒロは、光司の幼なじみの
 富永美優(榮倉奈々)の元カレだった。富永は元気な笑顔が魅力のはつらつとした性格で、ヒロと別
 れてからも光司のバイト先、ゲイのマスター(宇梶剛士)が営むカフェバーを訪れ、食べ物やDVDを持
 参しては家に出入りしている。マスターはゲイを承知でプロポーズしてきた女性と結婚をしたが、そ
 の妻を病気で亡くしていた。カフェバーには光司の義理の姉・美咲(小西真奈美)も足しげく通って
 くる。富永は、親の再婚で兄弟になった光司と美咲を楽しそうに眺めながら、今日も酒を片手に大好
 きなゾンビ映画のことを語るのだった。「潮風公園、よろしく」という初島からのメールが届き、光
 司は重い腰をあげて公園へと出かける。そこには、百合香(井川遥)がいた。彼女が娘と一緒に東京
 のさまざまな公園を散歩する写真を撮るうち、光司は次第に記憶の中の大切な人の面影と百合香を重
 ね合わせるようになっていく。そんな中、母が倒れたという報せを受け、光司と美咲は両親が住む大
 島へと向かう。その夜、美咲と光司は二人きりで話をする。百合香のことを語り始めた光司だったが、
 逆に美咲に富永のことを問われ、光司は戸惑う。やがて、富永の心の中にある深い悲しみ、美咲が心
 の中にしまってきた切実な愛情、言葉を交わしたこともない百合香の眼差しに触れながら、光司の心
 は次第に変わり始めていく……。

 他に、長野里美(志田裕子=美咲の実母)、小林隆(志田実=光司の実父)、岩花桜(初島かりん=隆史
と百合香の娘)、安藤玉恵(神林=歯科病院のスタッフのひとり)、松田沙紀(野村=同)、原金太郎(カ
フェバーの常連客)、廣川三憲(同)、島田雅彦(和服の酔客)、斉藤洋一郎(横坂好生=ピアニスト)、
ウダタカキ(清掃バイトの男=富永を襲う)、岡田優(パーティ客)、沢井正棋(同)、石田恭子(同)な
どが出演している。
 石神井公園、潮風公園、猿江恩賜公園、上野公園などが登場するが、それらが東京で渦巻を形成し、アン
モナイトを連想させるという挿話は、奇想天外で面白かった。


 某月某日

 DVDで邦画の『昼顔』(監督:西谷弘、フジテレビジョン=東宝=FNS27社、2017年)を観た。『昼顔』と
いうタイトルを見たとき、もちろん、カトリーヌ・ドヌーヴ〔Catherine Deneuve〕が主演した同名の映画
『昼顔(Bell De Jour,1967)』(監督:ルイス・ブニュエル〔Luis Bunuel〕、仏国、1967年)を連想した。
しかし、内容はもちろん違う。どう言えばよいのだろうか、「コテコテの不倫映画」とでも呼べばよいのか。
コンセプトとしては、「通俗メロドラマ」の範疇にぴたりと嵌るのだが、それだけでは済まないものがある
のは確かである。西谷監督の作品は、以下に挙げるようにこれで4本目の鑑賞だが、いずれも「金の取れる」
映画作りをしている。もっとも、今回は正直言って「やられた」と思った。映画センスが違うのである。お
そらく、TVドラマ作りで鍛えられたのであろうが、いちいち痒いところに手が届く演出をしているのであ
る。率直に、「傑作」の称号を贈ろうと思う。

  『県庁の星』、監督:西谷弘、『県庁の星』製作委員会〔東宝=フジテレビジョン=アイ・エヌ・ビー=
   博報堂DYメディアパートナーズ=S・D・P=小学館〕、2006年。
  『アマルフィー 女神の報酬』、監督:西谷弘、フジテレビ=東宝=電通=ポニーキャニオン=日本映画
   衛星放送=アイ・エヌ・ピー=FNS27社、2009年。
  『アンダルシア 女神の報復』、監督:西谷弘、フジテレビ=東宝=電通=ポニーキャニオン=日本映画
   衛星放送=アイ・エヌ・ピー=FNS27社、2011年。
  『昼顔』、監督:西谷弘、フジテレビジョン=東宝=FNS27社、2017年。

 物語を確認しておこう。例によって、<Movie Walker>のお世話になる。執筆者に感謝したい。なお、一部
改変したが、ご寛恕を乞う。

   〔解説〕

  平日の昼間に夫以外の男と恋に落ちる主婦たちを描き、社会現象にもなったTVドラマ「昼顔 -平
 日午後3時の恋人たち-」の3年後を描くラブストーリー。過去を忘れるように海辺の町で暮らしてい
 たヒロインの前に偶然、かつての不倫相手が現れ、再び衝動的な愛に身を焦がしていく。上戸彩、斎
 藤工、伊藤歩らドラマ版のキャストが再集結。

   〔あらすじ〕

  3年前、笹本紗和〔木下紗和〕(上戸彩)と北野裕一郎(斎藤工)は互いに家庭を持つ身でありな
 がら惹かれ合い、一線を越えてしまった。しかし、ただならぬ関係が明るみになり、弁護士を交えた
 示談の末に二人は別れを余儀なくされる。夫とも別れた紗和は、今は杉崎尚人(平山浩行)が営むレ
 ストランでアルバイトをしながら、彼女の過去を知る者のいない海辺の町でつつましく暮らしていた。
 北野の夢を見ることさえもうない。一方の北野は大学で非常勤講師を務めており、ある町で蛍に関す
 る講演をすることになる。講演中、ふと客席に目を向けたところ、そこには紗和の姿があった。再び
 めぐりあった二人はかつての愛を振り切れずに逢瀬を重ねていくが、二人の前に北野の妻である乃里
 子(伊藤歩)が現れ……。

 他に、黒沢あすか(田尻絹江=杉崎の営むレストランのシェフ)、萩原みのり(松本あゆ=同じく店員)、
志賀廣太郎(坂上=北野が務めている大学の教授)、三浦誠己(桜井刑事)、渋川清彦(魚屋の大将)、松
居大悟(氷業者)、中村育二(乃里子の父親)などが出演している。
 場面転換が鮮やかであるのみならず、そこにふと現われてくる広告の文字などにも気配りしており、すべ
ての物象が物語に絡んできて、実に驚くべき演出であった。ときどき聞えてくる「他人の関係」(作詞:有
馬三恵子/作曲・編曲:川口真/唄:金井克子、1973年) も実に効果的だったし、台詞もよく吟味されてい  
たと思う。とくに、北野の台詞の「そこに大事な人がいれば、どこだって都です」は、通俗極まる気障な台
詞なのだが、この男の心情をこれ以上ない言葉で表現していると思った。脚本の井上由美子は、『ジャンプ』
(監督:竹下昌男、「ジャンプ」パートナーズ〔エンジンネットワーク=バンダイビジュアル=IMAGICA〕、
2003年)の脚本も手掛けているが、この映画も印象深いので、「できる人はできるなぁ」と思わざるを得な  
い。たぶん、多くの人は、単なる「不倫映画」で片付けるだろうけれど、小生はこの映画の繊細さに、限り
ない拍手を送りたい。


 某月某日

 DVDでドキュメンタリー映画の『東京オリンピック』(総監督:市川崑、東京オリンピック映画協会、1965
年)を観た。「東京オリンピック開催40th記念 市川崑ディレクターズカット版」である。「オリンピックは
人類の持っている夢のあらわれである」で始まる当該映画は、先ず、オリンピックの開催地(開催国)を紹
介している。以下の通りである。

 第1回(1896年) アテネ(ギリシア)
 第2回(1900年) パリ(フランス)
 第3回(1904年) セントルイス(アメリカ合衆国)
 第4回(1908年) ロンドン(イギリス)
 第5回(1912年) ストックホルム(スウェーデン)
 第6回(1916年) ベルリン(ドイツ)
 第7回(1920年) アントワープ(ベルギー)
 第8回(1924年) パリ(フランス)
 第9回(1928年) アムステルダム(オランダ)
 第10回(1932年) ロサンゼルス(アメリカが秀国)
 第11回(1936年) ベルリン(ドイツ)
 第12回(1940年) 中止
 第13回(1944年) 中止
 第14回(1948年) ロンドン(イギリス) 日本、参加許されず。
 第15回(1952年) ヘルシンキ(フィンランド)
 第16回(1956年) メルボルン(オーストラリア)
 第17回(1960年) ローマ(イタリア)
 第18回(1964年) 東京(日本)

 103台のカメラを駆使、使用レンズ232本、録音テープ240時間の大作である。「より速く/より高く/より
強く(CITIUS ALTIUS FORTIUS)」の標語(ラテン語の副詞の比較級)の許に、118ヶ国が参加している。目  
立つところでは、わずか2名の選手団のカメルーンとコンゴ、さらに統一ドイツ(国家としては、1990年ま
で再統一されなかった)などが挙げられる。聖火リレーが広島を通過したのは、1964年9月20日のことである。
そして、閉幕、以下のようなメッセージが掉尾を飾る。

   夜
   聖火は太陽へ帰った
   人類は4年ごとに夢をみる
   この創られた平和を
   夢で終らせていいのであろうか

 <Movie Walker>ならびに<ウィキペディア>の記事を引用してみよう。いずれの執筆者にも感謝したい。な
お、一部改変したが、ご寛恕を乞いたい。

   <Movie Walker>

   〔解説〕

  和田夏十、白坂依志夫、谷川俊太郎、市川崑の共同シナリオを軸に、ニュース、劇映画のキャメラ
 マン一六四人が、イタリアテクニスコープ・カメラ五台と、二〇〇ミリ、一六〇〇ミリの超望遠レン
 ズ、その他光学技術最高の技術をふるって撮影した、五輪映画初のワイド版。また監督の一員として
 参加した安岡章太郎が、体操と一人の選手のエピソードを担当、谷川俊太郎がカヌー競技の撮影にあ
 たった。総スタッフ五百五十六人、総監督市川崑。2004年に市川監督自身が再編集し、音声を5.1ch化
 した『東京オリンピック 40周年特別記念 市川崑 ディレクターズカット版』(148分)が発表された。

   〔あらすじ〕

  ブルドーザーが鳴り、東京の街々は“東京オリンピック”の歓迎準備は万端整った。ギリシャに端
 を発した近代オリンピックの火が、太平洋を渡って、今、東洋の国日本に近づいている。羽田空港に
 は、アメリカ選手団を初めとして、各国選手が到着した。万国旗のひらめく中、聖火は点火され平和
 を象徴する鳩が放された。翌日から競技が開始された。一〇〇米男子決勝ではアメリカのへイズが、
 走高跳男子決勝ではソ連のブルメルが優勝。つづいて、砲丸投男子決勝でアメリカのロングが女子決
 勝ではソ連のタマラ・プレスが優勝。円盤投男子決勝ではアメリカのオーターが、女子決勝では再度
 タマラプレスが勝った。そして薄暮の中で、熱戦をくり広げた棒高跳は、ついにアメリカのハンセン
 の上に輝いた。翌日、雨空だった競技場で、一万米決勝でアメリカのミルズが優勝、つづい男子二〇
 〇、女子走高跳、女子槍投とうが行われた。八〇〇米女子決勝では、イギリスのパッカーが優勝。競
 技場のあちこちでは美しく逞しい身体がゆき交う。いそがしく動く報道陣の群れを追うように、国歌
 が流れ、女子八〇メートル・ハードル期待の依田選手が口笛を吹いて緊張をほぐしている。体操では、
 日本選手が堂々と君が代を鳴らした。今度初めて参加した国もある、チャドだ。三名の選手が参加し
 た。二度と来られないだろう。競技場の晴れの舞台で、独立国の責任と喜びを味わった。日本のお家
 芸、重量挙、レスリング、柔道も、予想以上の成績だった。フェンシング、水泳、フリーライフル、
 自転車、サッカー、ホッケー、バスケット、水球、馬術、そして、バレーボールでは、東洋の魔女が
 君が代を鳴らした。カヌー、ボート、ヨット、競歩、近代五種と競技は展開し、オリンピック最後を
 飾るマラソンは、アべべの楽勝で終った。すべて終了した。メキシコで再会する日を祝して、聖火は
 太陽へ帰った。メキシコの国旗がメインポールに翻えっている。

   <ウィキペディア>

  『東京オリンピック』(とうきょうオリンピック、Tokyo Olympiad)は、1964年の東京オリンピッ
 クの公式記録映画。市川崑が総監督を務めた。

   〔解説〕

  総監督を務めることになった市川崑は、自身とその妻で脚本家の和田夏十の名コンビに加え、新鋭
 脚本家の白坂依志夫と詩人の谷川俊太郎という布陣で、そもそも筋書きなどはないはずのオリンピッ
 クのためにまず緻密な脚本を書き、これをもとに壮大なドラマである『東京オリンピック』を撮ると
 いう制作手法をとった。日本を代表するカメラマンとして世界的にも名を知られた宮川一夫が主導し
 た撮影にも、アスリートの心情の表現を重視した演出や、超望遠レンズをはじめとする複数のカメラ
 を使った多角的な描写などを駆使し、従来の「記録映画」とは全く性質の異なる極めて芸術性の高い
 作品に仕上げた。しかしそれは、1936年のベルリンオリンピックを記録したレニ・リーフェンシュタ
 ール監督の『民族の祭典』と並んで、「芸術か記録か」という大論争を引き起こすことになった。
  完成披露試写の2日前(1965年3月8日)におこなわれた関係者のみの試写会で本作を鑑たオリンピ
 ック担当大臣の河野一郎は、「俺にはちっともわからん」、「記録性をまったく無視したひどい映画」
 とコメントし、「記録性を重視した映画をもう一本作る」とも述べた。文部大臣の愛知揆一も「文部
 省として、この映画を記録映画としては推薦できない」という声明を3月16日に出した。東宝は市川に
 映画の修正を求め、市川は試写版に日本人金メダリストやオリンピック建造物の映像を追加して公開
 版を作成した。
  この状況で、女優の高峰秀子は3月18日付の東京新聞に「市川作品はオリンピックの汚点だなどと乱
 暴なことばをはくなんて、少なくとも国務相と名のつく人物のすることではない」と市川を擁護する
 意見を投稿した。高峰はさらに単身河野に面会し、映画と市川の優れた点を訴えるとともに、河野が
 市川と面談するように求めた。このあと河野は3度にわたって市川と面談する機会を持ち(うち2回
 は高峰も同席)、最終的に市川ら関係者の努力を認め「できあがりに百パーセント満足したわけでは
 ないが、自由にやらせてやれ」と映画プロデューサーの田口助太郎(東京オリンピック映画協会会長)
 に電話して矛を収めることとなった。
  この時の騒動について市川は映画の完成から20年後に「要するに河野さんは、馬とかマラソンにう
 んちくのある方だったんですが、その辺の競技を映画で見たかったのにそれが十分入っていないのが
 気に食わなかった。作品を全面否定されたわけでも何でもないんです。今から言えば笑い話ですがね」
 とインタビューで語っている。
  英語版では大会組織委員会が再編集を施し、上映時間が日本語版より40分短い作品に仕上げている。
 一方市川自身も、2004年(平成16年)にオリンピック開催40周年を記念して発売されたDVDでは、本人
 が再編集したディレクターズカットを公開版と併せ収録している。このディレクターズカット版も、
 公開当時に全体のバランスから入れざるを得なかった競技や、やや創作に偏り過ぎたというチャド共
 和国の陸上アスリート、アフメド・イサのエピソードがカットされたため、公開版より22分短い。
  さまざまな波紋を広げながらも、『東京オリンピック』は日本国内で12億2,321万円の配給収入を記
 録。同年度のカンヌ国際映画祭では国際批評家賞、英国アカデミー賞ドキュメンタリー賞を受賞した。
 また映画館の他にも日本各地の学校や公民館で上映会が開かれたことから、その観客動員数は一般観
 客750万人、学校動員1,600万人の合計2,350万人で、事実上日本映画史上最多であるといわれている。
  この映画のタイトルは一般公募され4万7千通もの応募があり、その中から監督の市川が選ぶという
 かたちを取ったが市川は結局のところ「いちばん簡潔なものを」ということでタイトルは『東京オリ
 ンピック』に決まった。
  映画の製作はオリンピック開催の4か月以上も前の5月28日、オリンピック会場の建設現場でそれま
 で建っていた建物が壊されるシーンの撮影からクランクインした 。使用されたカメラは103台、レン
 ズは232本、撮影したフィルムの長さは40万フィート、録音テープの長さは6万5千メートル、携わった
 スタッフは総勢556名にも及び、撮影と編集には莫大な労力を費やした。効果音はほとんどが後付けで
 あり、富士山をバックに聖火ランナーが走るシーンなども別撮りである。
  撮影を進めるうえで「実際に競技している音を望遠マイクで拾うために1,700万円」、「競技場の臨
 場感を再現するステレオ録音にするため680万円」、「閉会式など夜間の明かりが暗い場所で撮影する
 ためF値の明るい超望遠レンズの調達に780万円」、等々と経費が次々とかさみ、最終的な制作費は3
 億5,360万円まで膨れ上がった。
  最初に話を受けたのは黒澤明だったが予算の関係から断り、次に今井正、今村昌平、渋谷実、新藤
 兼人ら複数の監督に話が流れ、最終的に市川が引き受けた。
  撮影スタッフの一人に山本晋也がおり、市川に「選手の癖を撮れ」と言われ、非常に困ったと後に
 話している。
  市川は8年後のミュンヘンオリンピックの記録映画『時よとまれ、君は美しい/ミュンヘンの17日』
 において、オムニバス形式のパートの一つ(100m競走を題材にした"The Fastest")を担当し、再度オ
 リンピック映画を手がけている。

 人びとが何かのために力を合わせて成し遂げることは、文句なしに美しい。小生は、この映画を観ていて、
何度泣いたことだろう。金儲け主義に塗れたオリンピックでさえ、多くのアスリートにとっては、自分の力
を最大限に絞り出すことだけが目的であろう。そのために費やされる日夜の努力こそが、人を感動させるの
だと思う。


 某月某日

 DVDで邦画の『劔岳 点の記』(監督:木村大作、「劔岳 点の記」製作委員会〔東映=フジテレビジョン=  
住友商事=朝日新聞社=北日本新聞社〕、2009年)を観た。小・中学生のころ、小生は「地理」という科目
が好きだったので、当然のごとく地図も嫌いではなかった。したがって、当該映画のように、地図を作った
人々が主人公の映画と聞いただけで、興味津々である。他にも、『伊能忠敬・子午線の夢』(監督:小野田
嘉幹、「伊能忠敬」製作営業委員会、2001年)という作品があるらしいが、残念ながら未見だし、観る予定
もない。しかしながら、機会があれば、是非観たい作品の一つである。
 先ず、冒頭に掲げられた言葉、その他を引用しよう。

   点の記とは(一部改変した。ご容赦あれ)

  地図を作るときに基準となる場所に埋められた標石を三角点という。それを記録した日記である。
 三角点の距離・方位・高さを測量することで正確な地図を作ることができる。現在、その数は約10万
 6,000箇所。
  その設置はすべて、ただ地図を作るためだけに命を賭けた測量士が先頭に立って道を開くことでな
 された。

  明治40年7月13日、劔岳頂上に、四等三角点を造標する。

 さて、物語を確認しておこう。例によって、<Movie Walker>のお世話になる。執筆者に感謝したい。なお、
一部改変したが、ご海容いただきたい。

   〔解説〕

  新田次郎の同名小説を浅野忠信をはじめ、名優たちの共演で映画化したドラマ。日本地図完成のた
 め、誰も登頂に成功したことのなかった危険な山、剣岳に挑んだ男たちの姿を描く。

   〔あらすじ〕

  明治39年。日露戦争を終えた陸軍は、国防のため日本地図の完成を急いでいた。最後の空白地点で
 ある雪山・剣岳への初登頂と測量は、陸軍参謀本部の測量手である柴崎芳太郎(浅野忠信)に任され
 た。立山連峰に屹立する剣岳は、多くの優秀な測量部員にも未踏峰なほどの険しさで知られていた。
 しかし、ここでの測量を終えなければ、日本地図は未完成のままである。一方、創設から間もない日
 本山岳会の小島烏水(仲村トオル)らは、ヨーロッパ製の最新道具を備えて、剣岳への初登頂の名誉
 を狙っていた。民間に先駆けられることは、国家の威信に賭けても避けねばならない。重い使命を背
 負った柴崎は、妻の葉津よ(宮崎あおい)から励まされながら、案内人の宇治長次郎(香川照之)と
 前人未到の剣岳へと調査に向かう。そこで出会ったのは、行者(夏八木勲)だった。「雪を背負って
 登り、雪を背負って降りよ」という彼の謎の言葉だけを胸に、登頂への手掛かりすらつかめないまま
 柴崎たちは下山した。翌年、測夫の生田信(松田龍平)ら7名とともに測量本番の登山へ向かう柴崎
 たち。しかし、立山連峰の過酷な雪と暴風雨、そして雪崩は、柴崎たちの行く手を厳しく阻む。絶望
 的な状況の中、前任の測量手である古田盛作(役所広司)からの手紙も苦悩する柴崎の心の慰めとな
 った。日本山岳会の小島たちも、剣岳の困難さを身をもって体験して、あらためて柴崎への敬意を深
 める。自分たちは登ることが目的でも、彼らは登ってからが仕事なのだ。もういちど仲間たちと連帯
 し、聳え立つ剣岳に柴崎たちは挑む。そこでヒントになったのは、いつかの行者の言葉だった。よう
 やく頂上へと到達できた柴崎は、地図づくりの測量を果たすことに成功した。しかし、そこで彼が目
 にしたのは、古代の行者が残していた痕跡だった。剣岳に初登頂したのは柴崎ではなく、彼らだった
 のだ。柴崎の複雑な感慨も、無言のまま山は包み込む。

 他に、モロ師岡(木山竹吉=信の先輩)、螢雪次朗(宮本金作=大山村の村人のひとり。重い荷物を運ぶ)、
仁科貴(岩本鶴次郎=同)、蟹江一平(山口久右衛門=同)、小市慢太郎(岡野金次郎=日本山岳会の会員
のひとり)、安藤彰則(林雄一=同)、橋本一郎(吉田清三郎=同)、本田大輔(木内光明=同)、小澤征
悦(玉井要人=陸軍参謀本部大尉、柴崎の理解者)、新井浩文(牛山明=「富山日報」の記者)、鈴木砂羽
(宇治佐和=長次郎の妻)、笹野高史(大久保徳昭=陸軍参謀本部少将)、國村隼(矢口誠一郎=同中佐)、
石橋蓮司(岡田佐吉=立山温泉の宿屋の主人)、井川比佐志(佐伯永丸=芦峅寺村総代)、田中要次(水本
教官)などが出演している。
 生田信が岩壁から落下するシーンや、猟師が熊を撃ってやはり雪の上を滑降していくシーンがあるが、あ
れはスタントマンの仕事なのだろうか。観たことのない映像だったので、少し興奮した。その他、「イグチ
ダケ」という大きなキノコが採れるシーンが印象に残った。地元では「コケ汁」と呼ぶらしいキノコ汁(た
ぶん、他のキノコ)も、食欲をそそった。小生は、中学生のときの臨海学校(千葉)で生まれて初めて「ナ
メコ汁」なるものをいただいたが、こんなにうまい汁は他にないと思ったことを覚えている。ここで出てき
た「コケ汁」も、是非一度口にしたいものである。なお、芳太郎の故郷である山形の「イシカリ」という植
物がこの富山でも生えていたが、その存在が芳太郎を喜ばせたことは言うまでもない。
 かくして、撮影期間2年、撮影日数200日超、総制作費10億円超、撮影地点2,500-3,000メートル、体感温  
度氷点下30-40度の映画は完成したのである。同じ新田次郎が原作(『八甲田山死の彷徨』)の映画『八甲田
山』(監督:森谷司郎、橋本プロ=東宝=シナノ企画、1977年)でもそうだったが、過酷な条件下での映画
作りには、想像を絶する困難が待ち構えているに違いない。関わったすべてのスタッフやキャストに、惜し
みない拍手を贈りたい。


 某月某日

 DVDで邦画の『ちょっと今から仕事やめてくる』(監督:成島出、映画「ちょっと今から仕事やめてくる」
製作委員会〔KADOKAWA=東宝=木下グループ=研音=シネバザール=パパドゥ音楽出版=朝日新聞社=GYAO=
KDDI=WOWOW=アサツーデイ・ケイ〕、2017年)を観た。成島出監督の作品は、以下のように9本観ている。
売れ線の映画を作ることのできる監督なので軽くは扱えないが、『孤高のメス』など感心できない作品もあ
り(臓器移植に関してミスリーディングな映画だと思う)、手放しで褒めることのできる監督ではない。し
かしながら、当該作品は、初期の『フライ,ダディ,フライ』や『ラブファイト』に通じるところがあり、人
生の「応援歌」として爽やかな作品に仕上がっていると思う。

  『フライ,ダディ,フライ』、監督:成島出、「フライ,ダディ,フライ」製作委員会、2005年。
  『ラブファイト』、監督:成島出、『ラブファイト』フィルムパートナーズ〔ミコット・エンド・バサラ=
   テレビ東京=ジェネオン エンタテインメント=コアプロジェクト=東映ビデオ=東映チャンネル=
   大広=テレビ大阪〕、2008年。
  『孤高のメス』、監督:成島出、「孤高のメス」製作委員会〔東映=テレビ朝日=木下工務店=
   アミューズソフトエンタテインメント=東映ビデオ=読売新聞=幻冬舎=博報堂DYメディア
   パートナーズ=朝日放送=メーテレ=東映チャンネル=北海道テレビ放送=九州朝日放送〕、
   2010年。
  『聯合艦隊司令長官 山本五十六』、監督:成島出、「聯合艦隊司令長官 山本五十六」製作委員会、
   2011年。
  『八日目の蝉』、監督:成島出、「八日目の蝉」製作委員会〔日活=松竹=アミューズソフトエンタ
   テインメント=博報堂DYメディアパートナーズ=ソニー・ミュージックエンタテインメント=Yahoo!
   JAPAN=読売新聞=中央公論新社〕、2011年。
  『草原の椅子』、監督:成島出、「草原の椅子」製作委員会〔東映=木下工務店=ティーワイリミテッド=
   ホウショウ=東映ビデオ=テレビ朝日=プレジデント社=フィールズ=キングレコード=読売新聞社=
   VIZ Media=博報堂=博報堂DYメディアパートナーズ=東映チャンネル=北日本新聞社=エース・プロ
   ダクション〕、2013年。
  『ソロモンの偽証/前篇・事件』、監督:成島出、「ソロモンの偽証」製作委員会〔松竹=木下グループ=
   博報堂DYメディアパートナーズ=朝日新聞社=GYAO!=KDDI〕、2015年。
  『ソロモンの偽証/後篇・裁判』、監督:成島出、「ソロモンの偽証」製作委員会〔松竹=木下グループ=
   博報堂DYメディアパートナーズ=朝日新聞社=GYAO!=KDDI〕、2015年。
  『ちょっと今から仕事やめてくる』、監督:成島出、映画「ちょっと今から仕事やめてくる」製作委員会
   〔KADOKAWA=東宝=木下グループ=研音=シネバザール=パパドゥ音楽出版=朝日新聞社=GYAO=
   KDDI=WOWOW=アサツーデイ・ケイ〕、2017年。

 ブラック企業が登場するが、当然のごとく、『ブラック会社に勤めているんだが、もう俺は限界かもしれ
ない』(監督:佐藤祐市、ブラック会社限界対策委員会〔アスミック・エース エンタテインメント=パルコ=
アミューズソフトエンタテインメント=関西テレビ放送=共同テレビジョ=Yahoo! JAPAN〕、2009年)を
真っ先に連想した。その他にも、『予告犯』(監督:中村義洋、映画「予告犯」製作委員会〔TBSテレビ=
WOWOW=ジェイ・ストーム=電通=CBCテレビ=C&Iエンタテインメント=MBS=ジェイアール東日本企画=
東宝=TCエンタテインメント=日本出版販売=RKB=HBC〕、2015年)などがテイストの似ている作品かもし
れない。労働基準法などあってなきがごとしの世の中だから、共感を抱く人も多くいると思う。しかも、パ
ワハラのオンパレードである上司の姿も、どこか滑稽で悲哀に満ちているところを勘案すると、そもそもこ
の現代という時代に生きること自体が、滑稽でかつ悲哀に満ちているのだろう。
 物語を確認しておこう。例によって、<Movie Walker>のお世話になる。執筆者に感謝したい。なお、一部
改変したが、ご海容いただきたい。

   〔解説〕

  第21回電撃小説大賞に輝いた北川恵海の人気小説を映画化した人間ドラマ。幼なじみだと名乗る男
 との出会いを機に本来の自分を取り戻していく主人公が体験する不思議な出来事がつづられる。主人
 公の隆を工藤阿須加、謎の存在であるヤマモトを福士蒼汰が演じる。監督は『八日目の蝉』の成島出。

   〔あらすじ〕

  厳しいノルマを課せられ、入社1年目の青山隆(工藤阿須加)は精神的に追い詰められていた。疲
 労から駅のホームで意識を失い倒れかかったところに、電車がやってくる。はねられそうになった彼
 を助けたのは、ヤマモト(福士蒼汰)という謎の男だった。ヤマモトは隆と幼馴染だというが、隆に
 は全く覚えがない。大阪弁でいつも爽やかな笑顔を見せるヤマモトと出会ってから、本来の明るさを
 取り戻し成績も上げていく隆。ある日、深刻な表情で墓地行きのバスに乗るヤマモトを見かけ不審に
 思い彼について調べたところ、ヤマモトは3年前に自殺していたことがわかる。

 他に、黒木華(五十嵐美紀=先輩社員)、吉田鋼太郎(山上守=部長)、森口瑤子(青山容子=隆の母)、
池田成志(青山晴彦)、小池栄子(大場玲子=孤児院の院長)などが出演している。
 遅刻は10分で1,000円の罰金/有給なんかいらない。体がなまるから/営業マンは業績がすべて/タクシー  
代は自腹決済/一月に残業を150時間こなしても、残業代は基本給に含まれており、出ない/上司の言葉は神
の言葉/等々……およそ耳にするだけでおぞましくなるような会社である。対照的に、バヌアツの自然が登
場するが、彼の地の映像を眺めていると、ゴーギャンが仕事や妻子を捨てた気持が分からないでもない。も
っとも、「じゃあ、そこに住んでみるか」と誘われたとしても、小生はたぶん行かないだろう。


 某月某日

 DVDで邦画の『ヒメアノール』(監督:吉田恵輔、「ヒメアノール」製作委員会〔日活=ハピネット=ジェ
イ・ストーム〕、2016年)を観た。 
     
  * 「ヒメアノール」の音引の「ー」は本来波線であるが、フォントがないので「ー」で代用する。

 久しぶりに怖い映画を観たと思った。この映画はけっして「ホラー映画」ではないが、かなり怖い。最近
の映画では、『クリーピー 偽りの隣人』(監督:黒沢清、「クリーピー」製作委員会〔松竹=木下グループ=
アスミック・エース=光文社=朝日新聞社=KDDI〕、2016年)や、『葛城事件』(監督:赤堀雅秋、「葛城
事件」製作委員会〔ファントム・フィルム=テレビマンユニオン=コムレイド〕、2016年)のテイストが近
いだろうか。もっとも、当該作品の方がリアリティがあるので、余計に怖い感じがする。この手の映画には
あまり高い評価をしないのが通例だが、「傑作」の称号を送ろうと思う。もっとも、瑕疵がないわけではな
い。チェーンソーとパチンコの挿話は、あまり練れていないと思った。しかしながら、前半で大いに笑わせ
られたにも拘らず、後半で血も凍るような描写の連続となり、そのつなぎ方はかなりスムーズだと思った。
 吉田恵輔監督の作品は、以下のように4本観ているが、前3作も悪くはなかった。しかし、監督に注目す
る程ではなかったので、記憶に残っていない名前だった。これで、完全に記憶に残る監督になったと言える。

  『なま夏』、監督:吉田恵輔、Power Cat Entertainment、2005年。
  『純喫茶磯辺』、監督:吉田恵輔、「純喫茶磯辺」製作委員会〔ムービーアイ・エンタテインメント=
   メディアファクトリー=テレビ大阪=WOWOW=テレビ愛知〕、2008年。
  『銀の匙 Silver Spoon』、監督:吉田恵輔、映画「銀の匙 Silver Spoon」製作委員会〔TBSテレビ=
   小学館=東宝=電通=WOWOW=中部日本放送=ポニーキャニオン=TBSラジオ&コミュニケーションズ=
   毎日放送=北海道放送=RKB毎日放送=GyaO!=JTBコーポレートセールズ〕、2014年。
  『ヒメアノール』、監督:吉田恵輔、「ヒメアノール」製作委員会〔日活=ハピネット=ジェイ・
   ストーム〕、2016年。

 彼は、塚本晋也監督の許で修業したらしく(ウィキペディアより)、作風も少し似ているかもしれない。
原作が古谷実だったので、間違いなく面白いと予想していたが、その予想は当たったというわけである。古
谷実と言えば、『ヒミズ』(監督:園子温、「ヒミズ」フィルムパートナーズ〔ギャガ=講談社〕、2011年)
を直ぐに連想するが、当該作品の原作は繙いていないので、是非購入して一読したいと思った。そのくらい
小生にとってはインパクトの強い作品となった。率直に言えば、現代が描かれているからである。
 物語を確認しておこう。例によって、<Movie Walker>のお世話になる。執筆者に感謝したい。なお、一部
改変したが、ご寛恕を乞う。

   〔解説〕

  日常に潜む狂気を鮮烈な描写でつづり、話題を呼んだ古谷実のコミックを映画化したサスペンス。
 かつての同級生と再会するも、連続殺人鬼となっていた彼から命を狙われる青年が体験する恐怖を描
 く。森田剛が無差別殺人を繰り返す森田を、命を狙われる主人公の岡田を濱田岳が演じる。監督は、
 『銀の匙 Silver Spoon』の吉田恵輔。

   〔あらすじ〕

  “なにも起こらない日々”に焦りを感じながら、ビル清掃会社のパートタイマーとして働いている
 岡田進(濱田岳)は、同僚の安藤勇次(ムロツヨシ)から想いを寄せる阿部ユカ(佐津川愛美)との
 恋のキューピット役を頼まれる。ユカが働くカフェに向かった岡田は、そこで高校時代の同級生・森
 田正一(森田剛)と出会う。ユカは岡田に森田からストーキングされていることを告げる。高校時代、
 過酷ないじめを受けていた森田に対して、岡田は不穏な気持ちを抱くが……。

 他に、駒木根隆介(和草浩介=森田とともに河島たちにいじめられていた同級生)、山田真歩(久美子=
和草の婚約者)、大竹まこと(清掃会社の社長)、山中聡(富田=ユカのアパートの隣人)、信江勇(飯田
アイ=ユカの親友)、鈴木卓爾(井上=森田に襲われる家の住人)、土居志央梨(香代=森田に狙われて殺
される女性)などが出演している。
 <ウィキペディア>にも映画の解説が載っているので、これも引用してみよう。同じく、深謝。

   〔解説〕

  2016年5月28日に公開された、漫画を原作にした同名タイトルの日本の実写映画作品。R15+指定。監    
 督は吉田恵輔、主演はV6の森田剛。森田剛にとって初めての映画単独主演作品である。
  サイコキラーの森田正一役に森田剛、同級生の岡田進役に濱田岳、森田にストーキングされるヒロ
 インを佐津川愛美が演じる。

   〔あらすじ〕

  清掃会社のパートタイマーとして働く岡田進(濱田岳)は、何も起こらない日々に焦りを感じてい
 た。同僚の安藤勇次(むろつよし)は自分の恋を岡田に手助けさせるため、阿部ユカ(佐津川愛美)
 の働くカフェへ岡田を連れていく。そこで岡田は高校の同級生だった森田正一(森田剛)と再会する。
  気の進まぬまま安藤の恋路を助ける岡田だったが、ユカとの会話で、森田がユカのストーカーをし
 ているらしいこと、そしてユカが岡田に一目惚れしていたことを知る。
  安藤に隠れてユカとつきあうようになった岡田。それを知った森田は同級生の和草浩介(駒木根隆
 介)に岡田殺しの協力を依頼する。しかしこれまで森田に金を無心され横領を繰り返してきた和草は
 それを裏切り、婚約者の久美子(山田真歩)と協力して森田を亡き者にしようとした。必死で和草と
 久美子を返り討ちにした森田は、彼らの死体に火を放ち、自分のアパートともども焼いた。家を失っ
 た森田は街をさまよい、本能にしたがって凶行を重ねていく。
  森田はユカや岡田の居場所を聞き出すため、ユカのアパートの隣人の富田(山中聡)や安藤を攻撃
 した。一命を取り留めた安藤の見舞いに訪れた岡田は、安藤の「こんなことになっちゃったけど俺た
 ち親友だよね」という言葉で、自身の高校時代を思い出す。高校時代の友達だった森田はひどいいじ
 めを受けていたこと、そして岡田はそれを救うどころか助長したこと。
  森田は岡田のアパートを調べて忍びこみ、帰ってきたユカに襲いかかった。しかし危険を察知した
 岡田が止めに入り、また警察が駆け付けたので、森田は岡田を人質に車で逃走する。岡田は車中で説
 得するが、森田は聞く耳をもたない。しかし森田は車の前方に見えた白い犬を避けようとして、電柱
 に衝突事故を起こしてしまう。
  強い衝撃を受けて血まみれの森田は、記憶を失ったのか、岡田に笑いかけた。高校1年生のある夏
 の日、森田と岡田がテレビゲームを楽しんでいた、あの日のように。

 「イジメ」を扱った作品は数多くあるが、そのリベンジをこれほどまでにリアルに描いた作品を小生は知
らない。イジメは、イジメられた本人も、イジメた相手も、救われないほどの負のスパイラルに陥る。民族
紛争も大掛かりな「イジメ」だと思うが、どうだろうか。登場人物のひとりである飯田アイの次の台詞が思
い浮かぶ……「岡田君ね、人間なんてたった数十年しか生きれないんだよ」。もし、それが重い意味を持つ
とすれば、たかだか数十年の間に、あるひとりの人間に、同じ仲間の人間の誰かをイジメている暇などあろ
うはずがないだろう。少なくとも、小生はそう思う。「人にかまうな。我が道を行け」と言いたい気分にな
った。改めて「イジメ」のもたらす恐ろしさを実感させてくれた映画である。吉田監督を始め、スタッフや
キャストに、「ありがとう」と言いたい。
 なお、これは蛇足であるが、タイトルの『ヒメアノール』とは、ヒメトカゲという体長10cmほどの小型爬
虫類で、つまり強者の餌となる弱者を意味する由(ウィキペディアより)。


 某月某日

 DVDで邦画を2本観たので報告しよう。いずれも楽しい映画で、それなりの困難を乗り越えるという意味で
両者は似通ってた。
 1本目は、『丘を越えて』(監督:高橋伴明、「丘を越えて」製作委員会〔ゼアリズエンタープライズ=
東映ビデオ=サクシードアイピー=オービー企画=アイコット〕、2008年)である。高橋監督の作品は、以
下のように9本観ているが、一番軽めの作品ではないかと思われる。

  『TATOO〔刺青〕あり』、監督:高橋伴明、国際放映=高橋プロ=ATG、1982年。
  『DOOR』、監督:高橋伴明、エイジェント21=ディレクターズ・カンパニー、1988年。
  『人間交差点〈ヒューマンスクランブル〉不良』、監督:高橋伴明、パイオニアLDC、1992年。
  『愛の新世界』、監督:高橋伴明、G・カンパニー=東亜興行、1994年。
  『光の雨』、監督:高橋伴明、シー・アイ・エー=エルクインフィニティ=衛星劇場、2001年。
  『火火』、監督:高橋伴明、ゼアリズエンタープライズ=バップ=カルチュア・パブリッシャーズ=
   ヒューマックスコミュニュケーションズ=ブロウアップ=滋賀県映画センター=アレックスシネマ=
   オフィスケイツー=ワコー、2004年。
  『丘を越えて』、監督:高橋伴明、「丘を越えて」製作委員会〔ゼアリズエンタープライズ=東映ビデオ=
   サクシードアイピー=オービー企画=アイコット〕、2008年。
  『禅 ZEN』、監督:高橋伴明、「禅 ZEN」製作委員会〔道元禅師の映画を一緒につくる会=アミューズ
   ソフトエンタテインメント=ツインズ ジャパン=トータル=誉=日本プライベート証券〕、2009年。
  『BOX 袴田事件 命とは』、監督:高橋伴明、BOX製作プロジェクト、2010年。

 菊池寛を主人公に据えて、その周辺を描いているが、とくに、韓国の青年貴族が語る「兩班(大韓民国:
ヤンパン、朝鮮民主主義人民共和故国:リャンパン)」(武士&役人&地主)についての話は新鮮だった。
『文藝春秋』、『オール讀物』、『モダン日本』などの雑誌の話、芥川賞や直木賞の設立の話など、その他
の挿話もなかなか面白いと思った。しかしながら、これは高橋監督が扱うべき素材なのか、という疑問は常
に付き纏った。緩すぎるからである。DVDのインタビュー・コーナーでも、仲間褒めの連続で鼻についた。た
しかに、池脇千鶴は比較的存在感のある若手女優だとは思うが、「天才」と呼べるほどだろうか。江戸言葉
や地口がいくつか登場するが、ことばの上辺だけは真似ても、情感が少しも感じられなかった。しょせん、
ほとんど理解しないで口にしているだけのことである。ことばやなりは何とか真似することができても、そ
の精神を醸しだすことは非常な困難を伴うと思う。今回の彼女の役がそれを如実に暴露している。
 ともあれ、物語を確認しておこう。例によって、<Movie Walker>のお世話になる。執筆者に感謝したい。
なお、一部改変したが、ご海容いただきたい。

   〔解説〕

  西田敏行ら、実力派共演の文芸ドラマ。芥川賞、直木賞の創始者でもある作家・菊池寛とその周辺
 の人々の姿を通し、モダンでけんらんな昭和初期の様相を描く。

   〔あらすじ〕

  日本に地下鉄が開通、映画館が立ち並び、自動車や洋服、そして女性が仕事をすることがまだ珍し
 かった昭和初期。江戸情緒の残る東京・竜泉寺町に育った細川葉子(池脇千鶴)は女学校を卒業し、
 就職のために文藝春秋社の面接を受ける。不況の折、採用の枠はなかったが、葉子は文藝春秋社社長
 であり著名な作家でもある菊池寛(西田敏行)の目に留まり、個人秘書としての職を得る。下町育ち
 の葉子に、菊池たちが過ごす世界はまぶしかった。銀座の街、帝国ホテル、ダンスホール、菊池にか
 らむ女性たち。矛盾をまるごと抱え込んだような巨人、それでいて破格の人情家でもある菊池に憧れ
 を抱く葉子。老境を迎えつつある菊池は、金では買えない葉子の魅力にかけがえのないものを感じ、
 恋に落ちる。その一方、葉子は菊池の元で働く若い美男の編集者、馬海松(西島秀俊)にも惹かれて
 いく。朝鮮の貴族出身で、日本に留学して菊池の知遇を得た馬。彼は一見、遊び人を気取っているが、
 心の中ではいずれ母国に戻り、新しい朝鮮を作りたいと野心を燃やしていた。そんな馬の若さと野心
 は彼女の胸をときめかせる。対照的な二人の男の間を揺れ動く葉子だったが、彼女は少しずつ成長し
 女流作家になりたいという自分自身の夢を抱く。やがて満州事変が勃発。戦争の足音が聞こえはじめ
 ると、馬は母国の独立のため、朝鮮に帰る決意を葉子に伝えるのだった。行く手に嵐を予感しながら
 も、菊池も葉子も馬も、自分自身の人生を歩もうとするのだった……。

 他に、余貴美子(細川はつ=葉子の母親)、嶋田久作(佐々木茂索=編輯長)、猪野学(長谷川伸策=地
下鉄しんちゃん)、石井苗子(堀口カツ)、峰岸徹(細川徳蔵=葉子の父親)、金山一彦(菊池寛を襲お
うとする右翼の青年)、猪瀬直樹(直木三十五)、高橋惠子(Bar Lupin のマダム)などが出演している。
 飛行船、オートバイ、ゴルフ、ハイヒール、ベースボール……など、このころ日本に入ってきた舶来物の
数々である。モボ(モダンボーイ)やモガ(モダンガール)なども、キータームのひとつである。雑誌『モ
ダン日本』は、吉行淳之介が戦後の同誌の編集者を務めていたことから小生の知るところであるが、実際に
手に取ったことはない。その他、マッコリ(朝鮮の濁酒)、コンベ(朝鮮の乾杯)、朝鮮の開化思想、日本
と朝鮮の関係はイギリスとアイルランドに似ている……など、上手に物語に絡ませていたと思う。なお、菊
池寛のアナグラムである「口利かん」のエピソードは出てくるが、宛名が「菊地寛」(池→地)となってい
たときは、その郵便物を読まなかったというエピソードは出て来なかった。
 2本目は、『東京ウインドオーケストラ』(監督:坂下雄一郎、松竹ブロードキャスティング、2016年)
である。勘違いが生んだドタバタ喜劇を軽快に描いている作品である。小市慢太郎以外知らない俳優ばかり
であったが、大根は一人もいなかった。若手俳優のレヴェルの高さを示していると言えよう。
 物語を確認しておこう。以下、上と同様である。

   〔解説〕

  作家主義と俳優発掘がテーマの松竹ブロードキャスティングオリジナル映画製作プロジェクト第3
 弾のコメディ。屋久島の町役場職員・樋口は日本有数のオーケストラと間違えてアマチュア楽団を呼
 んでしまう。樋口はミスを取り繕うため、彼らを本物だと押し通す。東京藝術大学大学院映像研究科
 7期修了製作として監督した「神奈川芸術大学映像学科研究室」が、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭
 2013長編部門審査員特別賞を受賞した坂下雄一郎の商業映画初監督作品。出演は、『喰女 クイメ』
 の中西美帆、『秘密 THE TOP SECRET』の小市慢太郎、『深夜裁判』の松木大輔。一般公開に先駆け、
 新宿シネマカリテの特集企画『カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2016』カリコレ
 発掘!NEW COMERとして上映(上映日:2016年8月7日)。2017年1月14日より鹿児島ガーデンズ
 シネマにて先行公開。

   〔あらすじ〕

  屋久島の町役場職員・樋口(中西美帆)は、毎日同じことの繰り返しの単調な日々を過ごしていた。
 しかし今日は、観光課の橘(小市慢太郎)が長年温めてきた企画が実現し、日本を代表するオーケス
 トラ“東京ウィンドオーケストラ”を迎えることになっており、樋口がその担当だった。そのころ鹿
 児島港では東京からやってきた10人の楽団員たちが、なぜカルチャースクールのアマチュア楽団にす
 ぎない自分たちが呼ばれたのか不思議に思いながら、屋久島行きの高速船を待っていた。屋久島の宮
 之浦港に到着した一行を迎えた樋口は、オーケストラのわりにはどうも人数が少ないと感じるものの、
 彼らを連れて淡々とスケジュールをこなしていく。一行は島をあげての歓迎ぶりに不審がるが、樋口
 の上司の田辺課長(松木大輔)に嫌味を言われると思わず「楽しみにしていてください、感動させま
 すから」と啖呵を切ってしまう。田辺と不倫している樋口は、そんな彼の態度に苛立つ。一行はコン
 サートのポスターに違和感を持つ。さらに、島一番の大ホールに案内され、20年来の夢が叶ったと感
 激する橘が間違いに気づく。樋口の手違いで、一文字違いのアマチュア楽団“東京ウインドオーケス
 トラ”(ィとイの違い)を呼んでしまったのだ。真実を言い出せない一行は、こっそり逃げ出そうと
 荷物をまとめる。同じころ、楽団員のリーダー・杉崎耕史(星野恵亮)の名刺を見て違和感を覚えた
 樋口が恐る恐る検索すると、無名のアマチュア楽団を見つける。ようやく彼らが偽物だと気づいた樋
 口が慌てて控室に行くと、すでにもぬけの殻となっていた。バス停で一行を捕まえた樋口は事情を問
 いただすが、解決策は見つからない。さらに田辺の依頼で職員の前で演奏することに。しかし予想に
 反し、田辺は演奏に感動してしまう。真実を話そうと田辺を呼び出すが、勘違いされて取り合っても
 らえず、樋口はこのまま本物ということで通すと決断する。樋口に説き伏せられた楽団員たちは本物
 のふりをして、このピンチを乗り越えられるのか?

 他に、遠藤隆太(トランペット)、及川莉乃(トロンボーン)、水野小論(お茶目な女性)、嘉瀬興一郎
(一見怖い人)、川瀬絵梨(ドラム)、近藤フク(サックス)、松本行央(初老の男性)、青柳信孝(ホル
ン)、武田祐一(トッポイ男)、稲葉年哉(音楽の先生)などが出演している。
 口パクで演奏する案も出るが、『逢いたくて逢いたくて』(監督:江崎実生、日活、1966年)を思い出し
た。歌手・園まりのそっくり娘が園まりの代役を務めるという物語だった。その他、小学生のころ鑑賞した
『青きドナウ(Born To Sing, 1962)』(監督:スティーヴ・プレヴィン〔Steve Previn〕、米国、1963年)
においても、声変わりで声が出なくなった友人の代わりを務める少年が登場する話を思い出した。いずれに
しても、このような状況は当事者にとっては綱渡りでも、鑑賞者にとっては喜劇としか言いようがない。そ
の意味で、ドラマ作りとしては好設定なのであろう。なお、地方の交響楽団を扱った『ここに泉あり』(監
督:今井正、中央映画=松竹、1955年)は、一見の価値のある傑作である。当該作品もそこまではいかなく
とも、かなり頑張って作った作品だと思う。

                                                  
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