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日日是労働(臨時版)1703-1706
 以下に、「日日是労働(臨時版)1703-1706」を掲載します。記事は、一部例外がありますが、
SOULS停止中のものです。日付を入れてありますので、いつもの「日日是労働セレクト」とは若干性格が異
なります。ご笑覧ください。
                                                  
 2017年3月28日(火)

 SOULSがストップしたので、今日から「日日是労働(臨時版)1703」を記録することにした。なお、
「驢鳴犬吠」は完全に休止状態におく。
 さて、DVDで2本の邦画を観たので報告しよう。およそタイプの異なる作品であるが、両者ともに水準をは
るかに超える佳作であった。
 1本目は、『予告犯』(監督:中村義洋、映画「予告犯」製作委員会〔TBSテレビ=WOWOW=ジェイ・ストー
ム=電通=CBCテレビ=C&Iエンタテインメント=MBS=ジェイアール東日本企画=東宝=TCエンタテインメン
ト=日本出版販売=RKB=HBC〕、2015年)である。中村義洋と言えば、この手のエンタテインメント作品を
作らせれば、現在の日本で5本の指に入る監督だと思う。彼の作品は、以下のように、12本観ている。もち
ろん、出来不出来は多少あるが、いずれも外れではないところが凄いと思う。

 『アヒルと鴨のコインロッカー』、監督:中村義洋、『アヒルと鴨のコインロッカー』製作委員会〔アミ
  ューズソフトエンタテインメント=スカパー・ウェルシンク=デスペラード=ダブ=読売広告社=東日
  本放送=河北新報社〕、2006年。
 『ジャージの二人』、監督:中村義洋、メディアファクトリー=TBSサービス=スモーク=ザナドゥ=Yahoo!
   JAPAN、2008年。
 『チーム・バチスタの栄光』、監督:中村義洋、「チーム・バチスタの栄光」製作委員会〔TBS=東宝=
  「このミス大賞」連合=MBS=CBC=RKB=HBC=S・D・P=朝日新聞社=TCエンタテインメント=クロスメ
  ディア〕、2008年。
 『フィッシュストーリー』、監督:中村義洋、「フィッシュストーリー」製作委員会〔アミューズソフト
  エンタテインメント=博報堂DYメディアパートナーズ=テレビ東京=CJ Entertainment=衛生劇場=パル
  コ=ショウゲート=スモーク=Yahoo! JAPAN〕、2009年。
 『ジェネラル・ルージュの凱旋』、監督:中村義洋、「ジェネラル・ルージュの凱旋」製作委員会〔TBS=
  東宝=「このミス大賞」連合=MBS=CBC=RKB=HBC=S・D・P=朝日新聞社=TCエンタテインメント=ク
  ロスメディア〕、2009年。
 『ゴールデンスランバー』、監督:中村義洋、「ゴールデンスランバー」製作委員会〔アミューズ=東宝=
  博報堂DYメディアパートナーズ=CJ ENTERTAINMENT=KDDI=スモーク=Yahoo! JAPAN=ショウゲート=
  朝日新聞社=TSUTAYAグループ〕、2010年。
 『奇跡のリンゴ』、監督:中村義洋、『奇跡のリンゴ』製作委員会〔東宝=博報堂DYメディアパートナーズ=
  幻冬舎=KDDI=ジェイアール東日本企画=読売新聞社=Yahoo! JAPANグループ〕、2013年。
 『ナゾトキネマ マダム・マーマレードの異常な謎 出題編』、監督:上田大樹/鶴田法男/中村義洋、ナゾ
  トキネマ「マダム・マーマレードの異常な謎」製作委員会〔TV TOKYO=SCRAP〕、2013年。
 『ナゾトキネマ マダム・マーマレードの異常な謎 解答編』、監督:上田大樹/鶴田法男/中村義洋、ナゾ
  トキネマ「マダム・マーマレードの異常な謎」製作委員会〔TV TOKYO=SCRAP〕、2013年。
 『白ゆき姫殺人事件』、監督:中村義洋、「白ゆき姫殺人事件」製作委員会〔松竹=松竹ブロードキャス
  ティング=集英社=ジェイアール東日本企画=ぴあ=博報堂=GyaO!〕、2014年。
 『予告犯』、監督:中村義洋、映画「予告犯」製作委員会〔TBSテレビ=WOWOW=ジェイ・ストーム=電通=
  CBCテレビ=C&Iエンタテインメント=MBS=ジェイアール東日本企画=東宝=TCエンタテインメント=日
  本出版販売=RKB=HBC〕、2015年。
 『残穢 -住んではいけない部屋-』、監督:中村義洋、「残穢 -住んではいけない部屋-」製作委員会〔ハピ
  ネット=松竹=エイベックス・ミュージック・パブリッシング=GYAO=ソニーPCL〕、2016年。

 作品の傾向としては、『藁の楯』(監督:三池崇史、「藁の楯」製作委員会〔日本テレビ放送網=ワーナー・
ブラザーズ映画=OLM=講談社=Yahoo! JAPAN=ジェイアール東日本企画=読売テレビ放送=札幌テレビ=ミ
ヤギテレビ=静岡第一テレビ=中京テレビ=広島テレビ=福岡放送〕、2013年)と『東京難民』(監督:佐々
部清、「東京難民」製作委員会〔キングレコード=ファントム・フィルム=シネムーブ〕、2014年)を合わせ
たような味わいだった。インターネット社会になって初めて成立する作品なので、21世紀らしい映画と言えよ
う。
 物語を確認しておこう、例によって、<Movie Walker>のお世話になる。執筆者に感謝したい。なお、一部
改変したが、ご寛恕を乞う。

   〔解説〕

  ネット犯罪の恐怖を描いた筒井哲也による同名コミックを生田斗真主演、戸田恵梨香共演で映画化した
 サスペンス・スリラー。ネットに犯行予告動画を投稿しては実行していく新聞紙製の頭巾を被った謎の集
 団“シンブンシ”と警視庁の女性捜査官との戦いをスリリングに描き出す。監督は『白ゆき姫殺人事件』
 の中村義洋。

   〔あらすじ〕

  新聞紙で作られた頭巾を被った姿の男〔奥田宏明=ゲイツ〕(生田斗真)が、集団食中毒を起こしたも
 のの法律の穴を突き開き直る食品加工会社に制裁を加える旨を予告する動画を投稿。警視庁サイバー犯罪
 対策課のキャリア捜査官・吉野絵里香(戸田恵梨香)は、『シンブンシ』と呼ばれる例の制裁を予告する
 者について捜査を始めるが、食品加工会社の工場が放火され予告の通りになってしまう。それからも無思
 慮な言動などのためネット上で炎上した者への制裁の予告と実行が度重なり、やり口をまねする者も出現。
 ついには政治家の殺害を予告する動画までアップされ、『シンブンシ』は社会現象になっていく。

 他に、鈴木亮平(葛西智彦=カンサイ)、濱田岳(木村浩一=ノビタ)、荒川良々(寺原真一=メタボ)、
福山康平(ネルソン・カトー・リカルテ=ヒョロ)、宅間孝之(岡本大毅=サイバー犯罪対策課の刑事)、
坂口健太郎(市川学=同)、小松利昌(金子=同)、増岡裕子(馬渕=同)、窪田正孝(青山祐一=ピット
ボーイ六本木店店員)、小松菜奈(楓=ラーメン屋「増本」の店員)、田中圭(北村=公安課の刑事)、遠
藤賢一(栗原=IT会社の社長)、本田博太郎(加藤=元印刷会社経営者)、小日向文世(設楽木匡志=衆議
院議員)、長木玲奈(吉野絵里香の幼少期)、仲野茂(石田清志=現場監督)、輝山立(岩渕颯太=ターゲ
ット001)、北本哲也(西啓吾=同じく002)、細田善彦(田端正義=同じく004)、野間口徹(ハ
ローワーク職員)、村松利史(年配の労働者)、中村ゆうじ(手配師)、ブラザートム(イベントの司会者)、
菜々緒(レッドクァンタムのCMモデル)、名高達男(警視庁副総監)、山中茂樹(アジサンフーズの逆ギ
レ会見の男)、池田宜大(記者)、沖田裕樹(保田=ピットボーイ厚木店店長)、眼鏡太郎(面接を受けて
いる男)、品川裕介(IT会社社員)、増井剛(同)、小久保寿人(同)、竹倉愛(同)、松下貞治(ピット
ボーイ新宿店店長)、永嶋柊吾(シンブンシに憧れる少年)、高畑百合子(テレビのアナウンサー)、岡田
泰典(同)、秋沢淳子(同)、出合正幸(設楽木の秘書)、仁科貴(トラックの運転手)、宮本大誠(刑事)、
田中登志哉(同)、島津健太郎(公安課の刑事)、小沼傑(同)、重田千穂子(救急病院の受付)、長野克
弘(親方風の男)、藤本静(警察病院の看護師)、増田晋(レッドクァンタムCMナレーション)などが出
演している。なお、配役の詳細に関しては、<ウィキペディア>を参照した。
 以下のような台詞がこころに刺さったので、記録しておく。

 奥田:(ヒョロに対して)ごめんな、こんな国で。
 奥田:(吉野に対して)あなたには、分からない。
 青山:(刑事に対して)あなたには、分からない。大きなことじゃなくても動くんです、人は。それが誰
    かのためになると思えば。
 奥田:(吉野に対して)頑張れるだけ幸せだったんですよ、あなたは。
 吉野:(奥田に対して)世界には生きる価値があるのよ。

 ある立場(第三者的な立場)から見れば、奥田の論理も吉野の論理も、いずれも正鵠を得ていると思う。
しかし、立場が異なれば、相手の論理はまやかしにすぎず、どこまで行っても平行線のままだろう。この作
品は「雇用」をめぐる深刻な問題を扱っており、その点で『東京難民』に通じるところがある。また、イン
ターネットで度外れた宣告をする点で『藁の楯』に似ている。いずれも優れて現代的な社会問題なので、こ
の映画を観ながら、いろいろなことを考えた。上で、「頑張れるだけ幸せだ」という奥田の発言を採り上げ
たが、阪神・淡路大震災のとき、被災者がヴォランティアの人から掛けられる「頑張れ」という言葉に強く
反撥した話を思い出した。たしかに、もがいてももがいてもどうにもならない人からすれば、うまくいって
いる人からの励ましの言葉はかえって鬱陶しいのかもしれない。小生にも経験があるが、簡単に飛び越せる
ように見えるハードルが、とてつもなく高く見えることがあるのだ。その人が飛び越えようと試みるまで、
周囲の人びとは黙って見ているしかない。本人自身が周囲のサポートを求めてから、初めて助け舟を出して
も遅くはないのである。
 また、フィリピン出身の少年は、父親(加藤のこと)を探しに日本を訪れているが、その際の費用は、腎
臓を売却することによって得ている。当然のごとく、『闇の子供たち』(監督:阪本順治、「闇の子供たち」
製作委員会〔セディックインターナショナル=ジェネオン エンタテインメント=アミューズ〕、2008年)を
連想したが、実際にこのような事例があるのだろうか。あっても何ら不思議ではないと思ったが、奥田の
「ごめんな、こんな国で」という台詞は、限りなく重い。
 2本目は、『おとうと』(監督:山田洋次、「おとうと」製作委員会〔松竹=住友商事=テレビ朝日=博
報堂DYメディアパートナーズ=衛星劇場=デンナーシステムズ=日本出版販売=FM東京=Yahoo ! JAPAN=
読売新聞=朝日放送=名古屋テレビ放送=木下工務店〕、2010年)である。『おとうと』以後の最近の山田
洋次の作品(4作品を観ている)が低調だと思ったので期待していなかったが、あにはからんや、彼のよい
ところが十全に発揮されている作品だと思った。主人公のひとりである吉永小百合に対しても、これまであ
まりよい印象は持っていなかったが、この作品の役柄のように、ともすれば偽善的に見える人を演じなけれ
ばならない彼女の立ち位置を考えると、むしろ彼女に同情したくなった。こんな人が増えれば世の中がもっ
と明るくなるとは思うが、たぶんこんな人はほとんど存在しないと思う。他方、笑福亭鶴瓶が演じた男はど
こにでもいるタイプで、鬱陶しいが妙に懐かしい感じがする。たぶん、亡くなった父親にかなり似ているか
らだと思う。
 物語を確認しておこう。以下、上と同じである。

   〔解説〕

  名匠、山田洋次監督が『十五才 学校IV』以来10年ぶりに手がけた現代劇。吉永小百合と笑福亭鶴瓶が
 姉弟に扮し、切っても切れない彼らの深い絆を、姉の娘の視点から描き出す。

   〔あらすじ〕

  東京の私鉄沿線、商店街の一角にある高野薬局。夫を早くに亡くした高野吟子(吉永小百合)は、女手
 ひとつで一人娘の小春(蒼井優)を育てながら、義母の絹代(加藤治子)との三人で暮らしている。小春
 とエリート医師・寺山祐介(田中壮太郎)との結婚が決まり、一家は幸せの頂点にあった。結婚式の前日、
 吟子は宛先不明で戻ってきた招待状を受け取る。大阪で役者をしているはずの弟、丹野鉄郎(笑福亭鶴瓶)
 に宛てたもので、酒を飲んで大暴れした吟子の夫の十三回忌を最後に音信不通になっていた。式の当日。
 和やかに始まった披露宴の途中、羽織袴の鉄郎が汗だくになって現れる。吟子の兄、丹野庄平(小林稔侍)
 に酒を飲むなと強く釘を刺されるが、我慢できたのは最初の数十分だけ。若者に交じって酒を一気飲み、
 マイクを独占し会場を練り歩いて浪曲を披露、あげくはテーブルをひっくり返す始末。新郎の両親にさん
 ざん文句を言われた庄平は、鉄郎と縁を切ると宣言する。翌朝、吟子は鉄郎に、大阪に帰る電車賃をそっ
 と渡し見送った……。小春の結婚生活は長くは続かなかった。育った環境の違い、夫の多忙、そしておそ
 らくは鉄郎の件も。やがて離婚が成立、再び高野家で三人暮らしが始まる。ある夏の日、鉄郎の恋人だと
 いう女性・大原ひとみ(キムラ緑子)が高野薬局にやってきた。鉄郎直筆の借用書を見せ、鉄郎と連絡が
 取れず困惑する彼女を哀れに思い、吟子はなけなしの預金を引き出すと全額(130万円)を手渡す。ほどな
 く、鉄郎が東京に現れた。吟子の様子からすべてを察した鉄郎は言い訳をするが、その不誠実な言動に、
 吟子は鉄郎との絶縁を言い渡す。それ以来、鉄郎の消息はぷっつりと途絶えてしまった。穏やかな日々が
 過ぎ、高野家では鉄郎のことが話題に上がることもなくなっていたが、吟子は密かに大阪の警察に捜索願
 を出していた。そんな中、鉄郎が救急車で病院に運ばれたという連絡が入る。吟子は急遽大阪に向かうが、
 鉄郎の身体中に癌が転移、余命数ヶ月との報告を受ける……。

 他に、加瀬亮(長田亨=大工)、芽島成美(丹野信子=庄平の妻)、森本レオ(遠藤=歯科医)、笹野高
史(丸山=自転車屋)、小日向文世(小宮山進=民間ホスピス「みどりの家」の運営者)、石田ゆり子(小
宮山千秋=同じくスタッフ、進の妻)、ラサール石井(大阪の警察官)、佐藤蛾次郎(鍋焼きうどんを配達
する出前持ち)、池乃めだか(アパートの家主)、横山あきお(ジローさん=「みどりの家」の住人)、近
藤公園(浜村=医師)、石塚義之(健太=丸山の息子)、中居正広(ホテルの従業員)などが出演している。
 この作品は、市川崑監督の同名作品に捧げられているが、その点について<ウィキペディア>に言及がある
ので、それを以下に引用させていただく。

 「1960年に『おとうと』を撮った市川崑監督に捧げられた。病に倒れた弟に姉が鍋焼きうどんを食べさ
  せるシーン、そしてふたりがリボンで手をつないで眠るシーンがオマージュとして反復されている」。

 やや不自然なシーンなので、かえって印象深い。その他、細部に凝る監督らしく、こころに沁みるシーン
は数々あった。とくに、「大工のうそ」(わざと少し寸法を狂わして作るが、時が経つとちょうどよくなる
極意)は、たしか幸田露伴の『五重塔』にそんな挿話がなかったか。もっとも、本物の大工に聞いた話かも
しれない。薬局対ドラッグストアの話にもこころが騒いだ。大店舗に潰される小売店の話を聞くたびに、何
とかならないものかと思うのである。「結婚前に、運転免許を取得し、歯も治しておくべき」という新郎側
の要求も、世知辛く聞こえた。結婚生活に経済的要素は大切だが、それ以上のものがあるだろうと思ったか
らである。「ゴンタクレの惨めな気持など分からないだろう」という鉄郎の嘆きも、小生の父親の嘆きに似
ていたので、胸が痛んだ。生前、彼のせいで何度泣かされたかしれないが、死んでほっとした自分の非に、
いまさらながら思い至るからである。


 2017年3月31日(金)

 DVDで邦画の『九月の冗談クラブバンド』(監督:長崎俊一、シネマハウト=プロダクション爆=ATG、1982
年)を観た。以前から観たいと思っていた作品であるが、期待外れだった。製作者の独りよがりが目立ち、
エンタメとしてもあまり人に薦められない出来であった。要するに、まだ素人の領域の映画である。もっと
も、70年代後半の雰囲気は出ているかもしれない。それなりのアンニュイな雰囲気は若干感じられるから。
 物語を確認しておこう。例によって、<Movie Walker>のお世話になる。執筆者に感謝したい。なお、一部
改変したが、ご寛恕を乞う。

   〔解説〕

  走ることを止めた元暴走族のリーダーと、彼をとりまく昔の仲間たちの青春群像を描く。脚本は江浜寛
 と、8ミリ出身で、この作品で劇場用映画の監督としてデビューする長崎俊一の共同執筆。撮影は手塚義治
 がそれぞれ担当。

   〔あらすじ〕

  かつては“ハマのリョウ”と呼ばれ、暴走族仲間に伝説的に語られるリョウ(内藤剛志)は、バイク
 を捨て、「冗談クラブ」というスナックの雇われマスターをしている。リョウが走るのを止めたのは、
 仲間の徹司(加賀山伸)が事故死してからであり、それから一年が過ぎようとしている。徹司の女だっ
 たレイ子(伊藤幸子)も就職して普通の娘になろうとしている。一方、残った仲間、夕陽(杉田陽志)、
 ザジ(樋口達馬)、ネム(山野上智子)はバイクをチューンし、徹司の一周忌にブッ飛ばそうと準備を
 していた。連中は、その日にリョウの伝説は甦り、疾走してケリをつけなくちゃならないと思っていた。
 さらに、本牧の暴走族、ルパンのリーダー、モロ(古尾谷雅人)も「冗談クラブ」にやってきてリョウ
 を牽制する。しかし、リョウには走る気もなく、仲間や敵にも取り合おうとしない。謎の中年男、羽根
 武(室田日出男)は、夏雄(諏訪太朗)、シド(舟久保信之)という若者を連れ、夜毎、暴走族狩りに
 異常な執念を燃やし、モロたちも深い傷を負わされてしまった。OLになったレイ子は仕事一途の職場
 の上司に心惹かれるが、実はその男が羽根の昼の顔であった。そうとは知らず、レイ子は一周忌を前に、
 羽根と結婚することによって、徹司への思い出、リョウへの愛をふっ切ろうとしていた。「徹司が死ん
 で一年が経ったのよ、いいかげんで何とかしなくちゃ……」とレイ子は焦った。誰もがギラギラしなが
 ら一周忌の九月を迎えようとしていた。暴走族狩りに出る夏雄、シド、そして羽根。彼らを迎えるモロ
 とルパンの一党の間で、激しい争いが始まった。一方、店では夕陽とザジが「本当に走らないのか、そ
 れでいいのかよ」とリョウに詰め寄っていた。リョウがダメになったのはあいつのせいだと、ネムはレ
 イ子の胸にナイフを突き刺した。明け方の路上では燃え尽きたトラックやバイクの残骸が散らばってい
 る。血だらけの羽根は部屋に戻ると、レイ子の傍に倒れた。

 よく分からないシーンも多く、その意味で人間が描けていないと思う。何かもったいぶった仕掛けを施そ
うとすると、必ず失敗するといった見本のような作品であった。


 2017年4月3日(月)

 DVDで邦画の『海潮音』(監督:橋浦方人、シネマハウト=ATG、1980年)を観た。「海潮音」といえば、
上田敏の訳詩集を思い出すが、どうやら無関係らしい。ただし、映画そのものは詩のような味わいが微かに
だが感じられるので、監督あるいは関係者の趣味なのかもしれない。池部良を始め、比較的大物が出演して
いるので、豪華キャストともいえる。しかし、全体を通して面白いとは思ったのだが、いまひとつ詰めが甘
い感じがした。同年に製作された『ツィゴイネルワイゼン』(監督:鈴木清順、シネマ・プラセット、1980
年)が抜群の出来なので、余計にそう感じられたのかもしれない。荻野目慶子が本格的銀幕デビューを飾っ
ている他、山口果林(吉永小百合のファンを「サユリスト」、栗原小巻のファンを「コマキスト」と呼んだ
ように、彼女のファンを「かりん党」と呼んでいた時期があったはずである)、烏丸せつこ(当該映画出演
後にブレイクした)が脇を固めており、さらに小生も女優として大いに買っている弓恵子やひし見ゆり子ま
で出演しているのだから、これは豪華である。その他、泉谷しげる、浦辺粂子、近藤宏、早川雄三、木村元
(玄)など、馴染の芸達者が多数出演している。さらに、宝塚歌劇団出身の上月佐知子(上月あきら)まで
重要な役で登場するので、贅沢な映画といえよう。
 物語を確認しよう。例によって、<Movie Walker>のお世話になる。執筆者に感謝したい。なお、一部改変
したが、ご海容いただきたい。

   〔解説〕

  大きな旧家を守る中年の主人、思春期を迎えたばかりの娘と若い叔父、そこへ割り込んだ記憶喪失の
 女、それぞれの世代の人生と葛藤を描く。脚本、監督は「星空のマリオネット」の橋浦方人、撮影は瀬
 川浩がそれぞれ担当。

   〔あらすじ〕

  北陸の海沿いのある町。実業家で町の実力者でもある旧家、宇島家の主人、理一郎(池部良)は、あ
 る朝、海辺でずぶ濡れになって倒れている気憶を失った女(山口果林)を助けた。このひとりの不思議
 な女を迎え、宇島家の人々の心はさまざまに揺れる。一人娘の伊代(荻野目慶子)も少女らしいとまど
 いと興味を抱いた。女手ひとつでこの家を守ってきた祖母の図世(浦辺粂子)は、息子の嫁を早く失っ
 たこともあり、女を家に置こうとする理一郎に異議を唱えず彼女を看病する。理一郎は次第に女に魅せ
 られていき、伊代は幼い頃の母の記憶に胸を痛めながら、大人たちの成り行きを見守る。ある日、理一
 郎の亡妻の弟、伊代の叔父にあたる菊永征夫(泉谷しげる)が東京の生活を捨てて、この町に帰ってき
 た。征夫は理一郎に仕事の世話をしてもらっていたが、女を家にとじこめる理一郎に批判的で、やがて
 二人は対立する。征夫は姉と理一郎の結婚に深い傷痕を残していたのだ。だが、征夫は家を守る男の自
 信と尊厳のある理一郎にかなうはずもなく、思いを寄せる吉井さちこ(烏丸せつこ)と別れ、ひとり町
 を去っていく。しばらくして、女に気億が蘇った。心中しようとしたが、男(吉沢健)だけ死に、自分
 は生き残ってしまった。理一郎の望み通り、この家に留るには辛すぎる気憶。だが、理一郎の女に対す
 る感情は極まっていた。謎の女の出現で、大人たちの未知なる世界に直面した伊代は、幼い体に宿る激
 しい感受性ゆえに、父や女に殺意も覚えるのだった。

 他に、上月佐知子(吉井収子=宇島家の家政全般を受け持っている女性)、近藤宏(吉井淳治=収子の夫。
宇島の運転手の他、仕事上の片腕となって働いている)、野上祐二(五島隆史=ガソリンスタンドにおける
征夫の同僚。さちことできている)、弓恵子(横尾光子=薬剤師として薬局を経営している。理一郎の愛人)、
早川雄三(赤木=謎の女を最初に診察した医師)、木村元(野沢=地元の警察官)、ひし見ゆり子(とし江=
スナック「アカシア」のママ。さちこもここで働いていた)などが出演している。
 謎の女が見る夢がなかなか凝っていた。理一郎がこの女に執着する理由がいまひとつ伝わってこないので、
この夢と絡ませればもっと面白い展開になったのではないか。荻野目慶子、山口果林、烏丸せつこ、弓恵子
がヌードを披露しているので、その点でも少し驚いた。以前、ある有名女優が、「必然的であればヌードも
辞さない」を語っていたことがあるが、小生に言わせれば、いやしくも<女優>と名乗るならば当たり前だと
思う。外国のある大歌手(女優も兼ねていた)が、「内臓まで魅せて勝負する」と言われていたことを思え
ば、裸ぐらいなんだと思うが、それは男の身勝手な言い分だろう。演技とはいえ、不特定多数の人に女性が
肌を晒すのはやはり恥ずかしいはずだからである。


 2017年4月7日(金)

 DVDで邦画の『もどり川』(監督:神代辰巳、三協映画、1983年)を観た。大正ロマンチィシズムを真正面
から描いた作品であるが、この頃の流行だったのかもしれない。たとえば、鈴木清順監督の「大正浪漫三部
作」(1980年-1991年)などがそれに当たるだろう。現代の短歌は、俵万智の『サラダ記念日』(1987年)が
大ヒットするまで地味な存在であったが、大正時代ではまた別の受け止め方がされていたのかもしれない。
「歌人」が主人公ということになると、現代の物語にふさわしいとは考えにくいが、この時代だったらある
いはと思わせるからである。ともあれ、何首か短歌が朗詠されるので、以下に書き写しておこう。

  天地(あまつち)の/ものみな崩れ/悲しき噂/いとしき人は/自ら娼婦となりぬ
  (相手は琴江……関東大震災の際に)

  流されて/流るゝままに/あてもなく/書きし手紙の/言の葉を焼く
  (相手は桂木文緒……桂川での心中未遂)

  わが指の/紅に供へたる/熱き血を/唇にふくみて/死にゆきしひと(同)

  掛け軸の/飜り壁に/落書の/女(ひと)の名見えて/たゞ懐かしむ
  (相手は朱子……千代ヶ浦での心中、朱子は死ぬ)

  幻の/女(ひと)に似せむと/黒髪を/きりし命の/千筋なるゆめ(同)

  そのひとに/なりて女(ひと)は/死にたいと言ふ/紅さす指を/吾歌になぞりて(同)

  花の色を/せめて黄泉路の/一灯に/せんと結びし/手のあたゝかき(同)

  明日はまた/涸れむ命の/つかのまの/朝陽に結び/蘇る花(同)

 和歌や短歌に詳しくない小生が言うのもなんだが、随分と通俗的な作品ばかりだなぁと思う。もっとも、
主人公の苑田岳葉(嶽葉)は連城三紀彦の『戻り川心中』の中の架空の人物であるから、それは仕方がない
ことであろう。要するに、分かりやすい短歌を並べてみたという流れであろう。
 物語を確認しておこう。例によって、<Movie Walker>のお世話になる。執筆者に感謝したい。なお、一部
改変したが、ご海容いただきたい。

   〔解説〕

  大正ロマンチシズムを生きた、奔放な天才歌人・岳葉と、その野望に身をまかせた女たちを描く。連城
 三紀彦の『戻り川心中』の映画化である。脚本は「時代屋の女房」の荒井晴彦、監督は『赤い帽子の女』
 の神代辰巳、撮影は『リトルチャンピオン』の木村公明がそれぞれ担当。

   〔あらすじ〕

  今日も苑田岳葉〔嶽葉〕(萩原健一)は、浅草・十二階下の遊廓の千恵(池波志乃)のところに来てい
 た。そんな岳葉を外で待つ妻のミネ(藤真利子)。ミネは胸を煩っていた。歌風のことで村上秋峯(米倉
 斉加年)に破門された岳葉は、その夜、前から心ひかれていた秋峯の妻・琴江(樋口可南子)のところに
 強引に忍び込み関係をもつ。二人は駈け落ちの約束をし、琴江は品川〔志ながわ〕駅で岳葉を待つが、彼
 は秋峯に姦通罪で訴えられて刑務所に送られた。刑期を終えた岳葉は、琴江が十二階下に居るという噂を
 聞いて出かけ、そこで関東大震災に遇う。その混乱のなか、岳葉はミネを療養所に入れ琴江を探し出すが、
 彼女は娼婦になっていて岳葉を冷たく突き放すのだった。首をつろうとしていた岳葉のところに、彼のフ
 ァンだという音楽学校の学生桂木文緒(蜷川有紀)が訪れた。文緒は銀行頭取令嬢で、岳葉との交際を親
 に知られ家からでることを禁じられたが、姉・綾乃(加賀まりこ)のはからいで京都へ演奏旅行した際、
 桂川のほとりの旅館で岳葉と落ちあった。岳葉から心中を持ちかけ、手紙で琴江に知らせるが返事は来な
 い。心中は未遂に終わり、それを詠った「桂川情歌」で岳葉は有名になった。そして自分が誰かの見替わ
 りだと気づいた文緒は自殺してしまう。ミネを見舞った療養所で、岳葉はもと詩人で今は社会主義運動家
 の友人・加藤(柴俊夫)の妻・朱子(原田美枝子)と知り合った。加藤は胸を煩っていたが、大杉栄が殺
 されてから過激になり、持ち歩いていた爆弾で彼を追って来た警官と共に爆死してしまう。岳葉は朱子に
 心中をもちかけ、知らせを聞いた琴江が二人のいる旅館にやってきた。岳葉と琴江が話している間、朱子
 は岳葉のノートを見つける。そこには心中が未遂に終わり、そのことを詠った歌が書かれていた。夜にな
 り、船で川へ出た二人は薬を飲む。朱子はノートを見たこと、薬を替えたことを言い、昏睡状態におちい
 った岳葉を死んだものと思い手首を切る。その様子を川のほとりから見つめる琴江。夜があけ、村人に発
 見された岳葉は命をとりとめたが、そこに琴江の死体があがったという知らせ。それを聞いた岳葉も、自
 ら命を断つのであった。

 他に、桑山正一(家主)、高橋昌也(第五銀行頭取=文緒の父)、西田健(新聞記者)、勝部演之(刑事)、
常田富士男(旅館「中洲屋」の主人)、芹明香(娼婦)、星野晶子(よしの屋の女将)、橋爪功(係官)、
西真理子(秋峯の女弟子)、外波山文明(特高警察官)、中川一朗(艶歌師)、浅岡朱実(中洲屋の女中)、
有馬昌彦(医者)などが出演している。
 神代辰巳監督の鑑賞作品は、以下で挙げるようにこれで6作目であるが、そのほとんどが日活のロマンポ
ルノとして作られたものなので、そうでないものを観てみたいと思っていた。当該作以外にもさらにいくつ
か問題作があるので、いずれ機会があれば観る予定である。

 『四畳半襖の裏張り』、監督:神代辰巳、日活、1973年。
 『鍵』、監督:神代辰巳、日活、1974年。
 『悶絶!! どんでん返し』、監督:神代辰巳、日活、1977年。
 『赫い髪の女』、監督:神代辰巳、にっかつ、1979年。
 『少女娼婦 けものみち』、監督:神代辰巳、にっかつ、1980年。
 『もどり川』、監督:神代辰巳、三協映画、1983年。

 観てみたい作品のリストも以下に挙げておこう。まだまだあるが、とりあえず6作品を挙げておく。

 『青春の蹉跌』、監督:神代辰巳、渡辺企画=東京映画、1974年。
 『櫛の火』、監督:神代辰巳、東京映画、1975年。
 『アフリカの光』監督:神代辰巳、東宝=渡辺企画、1975年。
 『地獄』、監督:神代辰巳、東映京都、1979年。
 『ミスター・ミセス・ミス・ロンリー』、監督:神代辰巳、市川バースル=ATG、1980年。
 『離婚しない女』監督:神代辰巳、松竹富士、1986年。

 このうち、年代の新しい方の三作品はDVDを所有しているので、近いうちに鑑賞する予定である。


 2017年4月8日(土)

 DVDで邦画の『午前中の時間割り』(監督:羽仁進、羽仁プロ=ATG、1973年)を観た。ATG関連で観たが、
作品としてはどうか。一種の実験映画に属するのだろうが、まるで高校生が作ったようなできである。もっと
も、それは羽仁監督の計算のうちで、これでいいのだろう。少なくとも、70年代の雰囲気は十分に味わえたし、
素材も悪くはない。彼の作品は以下で挙げるように4本目だが、最も地味な作品だった。出演者も素人同然な
ので、上手いも下手もないほどである。

 『不良少年』、監督:羽仁進、岩波映画製作所、1961年。
 『彼女と彼』、監督:羽仁進、岩波映画、1963年。
 『初恋・地獄篇』、監督:羽仁進、羽仁プロ=ATG、1968年。
 『午前中の時間割り』、監督:羽仁進、羽仁プロ=ATG、1973年。

 物語を確認しておこう。例によって、<Movie Walker>のお世話になる、執筆者に感謝したい。なお、一部
改変したが、ご寛恕を乞いたい。

   〔解説〕

  二人の仲の良い女子高校生が旅行に出かけるが、一人が事故死してしまう。その死因を確かめようと友
 人が彼女たちが撮影した8ミリを映写する。そして、その写し出された映像には、彼女たちの心理状態のプ
 ロセスが赤裸々に投影されていた。脚本は中尾寛治、浜田豊、荒木一郎の共同執筆、監督は脚本も執筆し
 ている『妖精の詩』(仏)の羽仁進、撮影は佐藤敏彦がそれぞれ担当。

   〔あらすじ〕

  地方駅のホーム。高校生の山中玲子(肅淑美〔シャウ・スー・メイ〕)が二人分の荷物を持って放心し
 たように歩いていた。東京に戻った玲子は同級生の下村親二(秦野卓爾)に連絡をとった。そして下村に
 玲子は草子が死んだことを告げた。あんなに親しかった二人の間に何が起ったのか、そして草子の死因   
 は……。下村と玲子は現像した8ミリフィルムを映写することにした。夏休み、玲子と草子は目的のない
 旅に出た。8ミリは二人の少女の東京駅の出発から始まった。見送る下村の顔、走る列車、流れる景色、
 みどりの林、ボートで遊ぶ二人、そして浜辺で裸で泳ぐ二人の姿。玲子を好きな下村にはそのカットは
 少々ショックだった。旅が続く。海岸近くの丘で奇妙な風船をあげようとしている青年と知り合い、風船
 をあげるのを手伝う。自衛隊に失望し、隊から風船の機械を持ち出して、そのまま逃げているという、沖
 (沖至)と名乗った青年は自分のかくれ家である船に二人を案内した。「いつまでも空の上にいたい、汚
 れた地上は大嫌いだ」と語る沖。その沖に玲子と草子はいつしか惹かれていった。やがて、草子は、はっ
 きりと玲子を邪魔し始めた。沖も草子の魅力にとらえられ二人は一夜を過ごした。だが翌朝、草子は不気
 嫌だった。夢と想われた沖に失望してしまったのだ。激しく夢を求め変身を望む、彼女の性質が自分自身
 を悲しませているのだった。突然、草子は変装ごっこを始めた。その、おかしく、寂しい変身。突如草子
 は、変装したまま崖へ走り出した。その草子を追いかける玲子の8ミリが烈しく乱れ、地面に激突してい
 た……。夏休みが終った。ある日、学校近くの喫茶店で、刑事(板津正一)に沖と間違えられた下村は、
 沖のことを玲子に追求し始めた。玲子もまた、あのとき、草子と自分の魂を狂わせたものは何であるかを
 探し求めていた。二人の努力は死んだ草子のフィルムを完成させることにつながるかもしれない。

 他に、吉田叡子(草子の叔母)、矢部正男(玲子の父)などが出演している。なお、草子を演じた国木田
アコは、明治の文豪國木田獨歩の曾孫に当る由。


 2017年4月9日(日)

 DVDで邦画の『生命(いのち)の冠』(監督:内田吐夢、日活多摩川、1936年)を観た。「マツダ映画ライ
ブラリー」が貴重なフィルムを現代に伝えている典型的な作品のひとつである。解説の佐藤忠男によれば、
もともとはトーキーだったらしいが、無声映画として編集し直している。もっとも、澤登翠が弁士を務めて
いるので、無声映画ということを感じさせないDVDとなっている。なお、案内人は俳優・タレントの毒蝮三
太夫(石井伊吉)である。
 物語を確認しておこう。今回は、少し長くなるが、「銀幕三昧」(ネット記事)の応援を得よう。執筆者
に感謝したい。なお、一部改変したが、ご海容いただきたい。

 監督:内田吐夢 
 原作:山本有三 
 脚色:八木保太郎
 活動弁士:坂本頼光
 出演:岡譲二、瀧花久子、井染四郎、原節子、見明凡太郎、伊沢一郎、菊池良一、鈴木三右衛門、光一、
    長尾敏之助、他
 製作:日活、1936年、サイレント、短縮版55分

   〔あらすじ〕

  南樺太の真岡で蟹缶工場を営む有村兄弟。清潔な志を守り通そうとする兄恒太郎(岡譲二)と、合理性
 を重んじる弟欽次郎(井染四郎)は、ある日漁へ出た二号船が沖で消息不明になったのをきっかけに、工
 場の経営について対立していく。海外からの大量注文の納品と、工場の乗っ取りを目論む会社への借入金
 の返済、その両方の期日が迫っており……。

   〔感想〕

  15歳の原節子の出演作再び。とはいえデビュー翌年、9本目の本作では誕生日目前だったのでほぼ16歳
 の原さんです。主演ではないので原さんを目当てに見るとちょっと肩すかしかもしれないけど、1930年代
 の北方領土(舞台は南樺太真岡だが撮影地は国後島東岸古釜市)の風景や、サイレント+活動弁士(現代
 の方)の取り合わせなどが珍しく、また製造業者の経営理念とは何かを考えさせられる、静かに心に響く
 名作でした。

   〔詳細〕

  物語は弁士による語りから始まります。

  「冬過ぎてなお、寒さ厳しい北の荒海へ出て、蟹漁に命をかける男達がいた。時は1930年代。所は南樺
 太、真岡。樺太西側の中心都市であり、港湾都市として栄えるこの町には、多くの缶詰工場が存在した。
 本編の主人公、有村恒太郎、欽次郎の兄弟が経営する工場も、その一つであった」。

  有村恒太郎(岡譲二)は漁から戻った漁夫達にお茶を入れながら、蟹漁の船一艘につき網は千反という
 規則に外れることのないようにと注意する。しかし漁夫達はそれには不満があり……。

  漁夫:舟一艘に網千反より餘計に持つちやいかんなんて、そんな規則を守る奴は居ねえ。みんな二千も
     三千も使つてゐるんだ。
  恒太郎:そうぢやないんだ。僕は他の工場の事を云つてるのぢやない。うちの君達が正しくやつてくれ
      る事を頼んでゐるんだ。
  漁夫:ね大將、わし等がこんな事を云つても怒らねえで下さいよ。
  恒太郎:僕は怒りやしないよ。遠慮なく話してくれたまへ。
  漁夫:ぢや云ひますがね。大將は本当に馬鹿正直すぎまさ。その爲に今までにだつてどれ程損をしてる
     か知れやしないんだ。わし等毎日どの工場の船よりも大漁がしてえ。同じ工場の仲間でも他人の
     船よりも大漁がしたいよ。だから今日の漁で負けりゃ、明日は意地でも大漁旗おつ立てゝ帰らな
     くちゃ──実際、船頭はやつちゃあゐられませんや。せめてもう五百反づゝでいゝから、網をふ
     やして貰ひたいんでさあ。

  事務机に腰かけていた弟欽次郎(井染四郎)も漁夫達の意見に賛同する。

  欽次郎:兄さん、網をふやしてやつてみやうじゃありませんか。実際今年はどこでも血眼ですよ。何し
      ろ三年越しの不漁ですからね。それにローゼンと契約しただけでも製品が出来なければ賠償金
      を拂はなければならないんですよ。

  皆の意見を聞いた恒太郎は立ち上がり、静かに語りかける。

  恒太郎:僕にしたところで誰よりも大漁がしたい。がしかし以前のやうにみんなが競争で船や網をふや
      したら、君達も知つての通り年々蟹がとれなくなって、一時は共倒れをしかけた事もあつたぢ
      やないか。規則で船や網の数を制限して蟹の繁殖を保護するのは、とりも直さず自分達の生活
      を保護する事になるんだからね。遠山君、君は先刻僕の事を馬鹿正直だと云つたけれど、それ
      は君の見当ちがひだ。

  白い雪の中の低い木造の屋根と煙突の煙が、なんだか日本のようで日本でない場所のように感じられて、
 ノスタルジーとはまた別の感動がありました。戦前日本の一部だった場所に、こんな風景があったんだと。
 正直「真岡」と聞くとあの電話交換手達の悲劇が思い出されて、映画を見ているだけなのに少し胸にこたえ
 るんだけども、これは真岡じゃなく国後島なのだと思えばそれはそれで、真岡の悲劇と同じちょうど今頃
 (8月15日以降)ソ連軍に占領され、住民が追い出されてしまったそうなので、そこにもまた不幸な歴史が
 あるのでした。このロケで使われた「碓氷製缶工場」でも、ソ連軍に工場の設備などを一通り教えさせられ
 た後でみんな追い出されたと、根室に残る子孫の方が本作が付属している新潮45の2011年3月号のインタビ
 ューで語っています。つまりこの映画にエキストラとして出演している碓氷工場の本物の女工さん達の中に
 も、その苦難に遭われた方がいるかもしれないということ。この映画には北方の現実が写っている。そう思
 うと、実際と同じようにテキパキと、でもやっぱり映画出演にはしゃいでいるかのような彼女達の笑顔に、
 若い日本の活気と哀しみとを同時に見る思いがして、やはり胸が痛みます。
 物語はある日、漁へ出た二号船が戻らないことで展開していきます。

  恒太郎:どうも気になるなあ。
  漁夫:大將、心配しなさんな。船頭は遠山ぢやないですか。
  恒太郎:いや遠山だから、なほ心配なんだ。あれは漁をしたがって居たからなあ。
  漁夫:いやあ、大丈夫。朝になりゃ帰って来ますよ。

  漁夫達は恒太郎を気遣いながらまた漁に出て行く。残ったのは恒太郎と欽次郎の兄弟二人。

  恒太郎:欽次郎、お前も寢たらどうだ。
  欽次郎:兄さんは?
  恒太郎:俺はもう少し起きて居やう。
  欽次郎:ぢや、お先に。お休みなさい。

  虚空を睨みつつ、朝までまんじりともせず二号船の帰りを待ち続ける恒太郎。そこへ汽笛が……。「帰っ
 てきた!」と微笑んで、表に駆けてゆく恒太郎。しかし……。そこにはいつもと同じ寂しい荒海が広がるば
 かりで、船の姿はどこにもなかった。起床した欽次郎は事務所にいるはずの兄がいないので不思議に思い、
 食堂で配膳の準備をしている義姉に尋ねる。

  欽次郎:姉さん、兄さんどこへ行つたか知りませんか。
  昌子:事務所に居ない?
  欽次郎:事務所に居ないんです。おかしいな。

  欽次郎は兄を探して屋外に出る。
  兄は一人、海を見渡す岬に立っていた。

  欽次郎:どうしたんですか、兄さん。
  恒太郎:探しに出やうぢやないか。
  欽次郎:探すって、遠山の船ですか。大体間違ひないと思ふんですが。今日一日待ってみやうぢやありま
      せんか。
  恒太郎:いや早い方がいゝ。俺は何だかいやな豫感ばかりしてゐるんだ。直ぐ出やう。

  普段は事務所に詰めている恒太郎が甲板に立ち、海面を注意深く探索する。不謹慎だが普段時のインテリ
 ぽい雰囲気と打って変わって海の男という出で立ちの恒太郎がカッコイイ。しかし、何も手掛かりが見つか
 らず帰宅する日々が続く。コートを脱いで現れるスマートなダンディ。いつも穏やかな恒太郎の面に焦燥と
 疲労の色を見て妻の昌子も心配げ。とりあえず食事を勧めるが、恒太郎は探索の電報をチェックするため、
 まず他の漁夫達に休憩をとらせることにして自分はまた事務所に詰める。漁夫達が向かった食堂では女達が
 給仕の支度をしていて……。事務所では、残った恒太郎に欽次郎が漁の再開と工場の再稼働を求める。

  欽次郎:兄さん、探すのは一旦切り上げませんか。何時までも工場も船も休ませておくわけにはいかな
      いでせう。船は一艘失くしてゐるし、また今年の様に不漁ぢやうかうかしてゐると契約の半分
      も製品が出来なくなりますよ。今日久富商会の片柳から皮肉な電報が来てゐたんです。「先日
      の件、当地山田工場と契約す。御安心を乞ふ」と云ふんです。この間の注文を断つたからです
      よ。片柳が近頃山田工場を買収するとか、うちの工場を買ふなんて方々で云つてゐるそうです
      よ。そんな事を考へると、きっと何か彼奴は企んでゐるんです。これだけ探して何の手がゝり
      もないんですから、仕方がないぢやありませんか。
  恒太郎:だが俺はまだ絶望してゐないんだ。絶望する様な材料は何も見つかってゐないんだ。
  欽次郎:ぢやあ、まだ探すんですか。
  恒太郎:うん。矢張り探そう。
  欽次郎:いつまで。
  恒太郎:いつまでだか、それはわからない。
  欽次郎:兄さん、それぢやまるで無茶ですよ。どんな事業だって、犠牲者はあるんです。
  恒太郎:この事業で人の命を奪つたとすれば、それは僕が奪つた事になるんだ。かういふ場合には犠牲
      者を出しても止むを得ないと云ふ根本的な理由さえ解れば、僕は今からでも仕事が出来る。

  厳しい顔で欽次郎に向き直る恒太郎。

  欽次郎:兄さんが夢の様な事を云つて何時&#36832;も仕事をしなければ、契約違反でローゼンには賠償
      金を取られるし、仕込みの金では久富に工場の権利を投げ出さなければならなくなるでせう。

  欽次郎は納得できず不満をぶつけるが、恒太郎の意志を覆すことは無理だと判断、兄が探索に出ている
 間に内密に船を出して漁を再開する。そして兄が戻る前に事務所に戻り、出迎える。

  欽次郎:兄さん、お帰んなさい。
  漁夫:若大將、この帽子にや見覚えねえですか。確かに十三人の連中のもんにや違ひねえと思ふんだが。
  欽次郎:どこにあつたんだ。
  漁夫:南へ四時間ばかりの沖です。

  漁夫が帽子を兄弟の前に置いて見せると、台所仕事をしていた昌子と絢子もそちらに目を向ける。

  絢子:北村さんのだわ。

  即座に声を上げる絢子。ハッとしたように改めて帽子を確認する漁夫達。

  漁夫:そうだ、北村のだ。
  漁夫:あゝ、あの青森縣から来た若い男か。可哀想な事に……。

  帽子を大事そうに手に取る恒太郎。
  帽子から目をそらすようにうつむいていた絢子が、こらえきれぬ様子で食堂から出て行く。ここまで北村
 (伊沢一郎)は一度も出てきていないんだけど、おそらく短縮版でない本編には出演シーンがあったんだろ
 うな。そして二人はたぶん恋人同士のような間柄。……見たかった。
  二号船の遺留物が揚がったと聞いて駆け込んで来た遠山の妻などを宥めながら、他の漁夫達も食堂を出て
 行く。そこへ缶工場の工員が出来上がったばかりの缶詰を持ってやってくる。欽次郎が再開させた漁で獲っ
 た蟹で作った缶詰である。

  欽次郎:兄さんには内密でしたが、僕の獨断で今日から仕事を始めさせました。
  恒太郎:暫く機械を休ませて置いたから、注意をしてやつてくれてるかね。一つ開罐して見せてくれない
      か、どんな肉だか。

  無断で漁を再開して工場に指示を出したことには何も言わず、缶を一つ手に取る恒太郎。一瞬目を泳がせる 欽次郎。
  工員も戸惑いの表情を浮かべながら、開缶したものを恒太郎に差し出す。
  中の蟹の身を手に取って見て、怒りを露わにする恒太郎。

  恒太郎:雌蟹ぢやないか、こりゃ。欽次郎、お前がこんな品を作らせたのか。何故こんな品を作るんだ。
      ローゼンとの約束は一等品だつた筈だ。全部かうか。
  工員:はあ、いゝえ全部ぢやあないんですが……。
  恒太郎:ぢやあ、悪い方の罐を全部切つて雌蟹を捨てゝ詰め直してくれたまへ。
  欽次郎:全部やるんですか。
  恒太郎:うん。気の毒だがやつてくれたまへ。
  欽次郎:兄さん、僕はもう仕事をやめます。僕の気持は兄さんに判って貰へないんだから。
  欽次郎:僕だつて雌蟹を一等品の罐詰にしてはいけないぐらひよく知つてゐますよ。しかしこの場合、
      どんな事をしてでも、久富とローゼンの契約だけは果さなければならないでせう。二十日間に
      ローゼンの契約の方だけ仕上げるにしても、以前の様に蟹が沢山とれて船が四艘あつても難し
      いですよ。片柳の奴は噂の通り山田工場を買収してしまつたし、この次にあいつが狙つてゐる
      のはうちの工場なんですよ。今こゝで大損をして、金で縛られたらどうもがいたつて破産より
      他に道は無いぢやありませんか。
  恒太郎:お前はどんな事をしてもこの工場を維持しやうとするから……。工場は良い製品を作るのが目
      的であって、工場を経営する爲にはどんな事をしてもいゝといふ事はないんだ。まして今度は
      外国人相手の取引だ。日本人の面目としても立派な製品を作つて送るのが当然の務ぢやないか。
  欽次郎:兄さんもう理想論はやめて下さい。この場合どうすればいゝか、それを聞かせて下さい。
  恒太郎:お前の云ふ通り成算がないとすれば、他から蟹を買はうぢやないか。それでとにかくローゼン
      の方の契約だけでも果さう。
  欽次郎:久富の方はどうするんです。工場や船が担保で仕込の金を借りてるんですよ。
  恒太郎:うんそうだ、久富の方は……。

  恒太郎が言いかけたところに、一通の電報が届く。

  欽次郎:何んの電報です。
  恒太郎:罐がまた三割がた値上げだ。
  欽次郎:悪くなる時はどこまでも悪くなるんだ。兄さん、うちは破産しますよ。僕の計劃した様にやら
      うぢやありませんか。
  恒太郎:いや、それは出来ん。
  欽次郎:兄さん、いつまでそんな事を云つてゐるんです。一体どうしようと云ふんです。

  立ち上がって言い募る欽次郎。見守る妻と妹。
  それまで恒太郎は穏やかな表情を崩さず欽次郎の言い分を聞いていたが、一転、厳しい顔で欽次郎を見据
 え、これからの処し方について言及する。

  恒太郎:ローゼンの契約が終つたら、船も工場も全部久富に投げ出して、男らしく頭を下げて城を明け
      渡さうぢやないか。
  欽次郎:いやです。そんな事をするくらひなら賠償金を拂つて遊んでゐた方がいゝんだ。

  自暴自棄になったように乱暴なことを言う弟の手に手を重ねて、恒太郎は説き続ける。

  恒太郎:製造業者はたとへ損をしても、契約した製品を送るのが務ぢやないか。お前の云ふのも無理も
      ないが、しかし、正しい事をして貧乏するなら仕方がないぢやないか。欽次郎、やれるだけや
      つて見よう。それで破れたら潔く二人で討死しようぢやないか。これは昌子にも絢子にも判つ
      て貰へると思ふんだ。そうして新しく踏み出さうぢやないか。ね、欽次郎。

  しばらく俯いていた欽次郎だったが、やがて顔を上げ、兄の決断に頷いた。
 
  欽次郎:……兄さん、判りました。やりませう。

  兄弟の方針が一致したことで工場の操業予定にも目途が付いたため、漁夫や工員にもそれを周知すること
 に。

  恒太郎:一等品二千箱が出来上り次第、今年の蟹場は一時中止したいと思つてゐる。従つて、みんなの
      契約した月よりは二か月も早く切り上がるわけだ。両親のそばへ帰りたいと思ふ人は帰つてく
      れたまへ。

  休暇予定が早まったことに喜ぶ工員たち。作業にも精が出、恒太郎欽次郎兄弟が他社から蟹を手配して
 きたこともあって、期日までにローゼン納品分の製品は出来上がった。有村缶詰工場最後の日、工場の煙
 突から出る煙を二人で見上げる。そして、この日は、二号船乗組員達の法要の日でもあった。祭壇を設え、
 手を合わせる参列者達。

  漁夫:早えもんだの。もう四十九日か。
  遠山の妻:死骸(なきがら)は上らないが、旦那様にこんなにまでして貰へば、うちの人だつてみんな
       浮かばれるよ。

  悲しみを湛えた表情で祭壇を見つめる絢子。
  全ての仕事を終え、事務所に集まる有村家一同。

  恒太郎:欽次郎、ローゼンへ一つ電報打つておいてくれないか。契約の製品が全部出来たから明日発送
      するつて。それから久富の方へもだね、契約に反した事を詫びて一本打つといた方がよからう
      な。

  そこへ入室してきたのは、久富商会の片柳。

  片柳:や、今日は。皆さんお揃ひで。
  恒太郎:やあ片柳さん。ようこそ、まあどうぞ。実はね片柳さん。今あなたの所へ電報を打たうとして
      ゐた所なんですよ。あなたと契約した品が出来なくなりましたんで、まあお詫びをしようと思
      つてゐたんです。
  片柳:お詫びと云ひますと、何か具体的な……。
  欽次郎:あんたからこの事を本社へ報告してもらへばそれでいゝんです。
  片柳:ぢや有村さん、あなた方はこれから……。
  恒太郎:いや、まだ自分達の事は考へて居りません。欽次郎、片柳さんに工場の方を一度見て頂いた方
      がいゝかも知れないね。
  片柳:いやかまわんでおいてくれたまへ。僕達は勝手に見て帰るから。

  欽次郎の激昂をかわすように早々と退出していった片柳を見送り、
  恒太郎は妻と妹の肩を抱く。

  恒太郎:これで何もかも、済んでしまつたね。

  ほっとしたように恒太郎の腕によりかかる昌子と絢子。事務所を見回していた欽次郎が、壁に飾ってあ
 る蟹の剥製に目を止め、義姉に尋ねる。

  欽次郎:姉さん、あの蟹はいつ造つたんでしたかね。
  昌子:そうね、工場を始めた年ぢやなかつたかしらん。
  欽次郎:そうでしたかね。兄さん、覚えてゐますか。
  恒太郎:うん、一番最初にとれた蟹なんだ。
  欽次郎:ぢやあの蟹はもう七年もこの部屋を見下ろしてゐるわけだなあ。
  昌子:随分色んな事を見たでせうね。
  欽次郎:来年の漁期には、片柳なんかがこの部屋で悪い相談でもしようもんなら、人間は良心を欺いて
      はいけない、なんてあの蟹が云ひ出すかも知れませんね。

  恒太郎が微笑んでつぶやく。

  恒太郎:哲学で思い出したんだが、たしか黙示録の中に『爾、死ニ至ルマデ忠信ナレ。然ラバ我レ爾ニ
      生命ノ冠ヲ與ヘン』と云ふのがあつたよ。
  欽次郎:ぢや僕達はみんな生命の冠を貰ふわけですね。でも僕のなんか一番小さい冠かも知れませんね。

  明るく笑い合う四人。
  タイトルの『生命の冠』ってどういう意味だろう? ……と思っていたんだけど、こういうことだった
 んだね。最後にストンと落ち着く、気持ちの良い作品でした。現実的なことを言えば、工場は人手に渡り、
 財産もおそらくあまりない状態でまた一からのスタートになるというのはなかなか厳しい状況なんだけど、
 人を雇用して、商品を作って売るということについてはこうあるべきだ、理想を捨てるべきではないんだ
 という、製作側の熱意を感じました。「正しい事をして貧乏するのなら仕方がない」、「契約は契約通り
 に果たすべき」、「日本人の面目としても立派な製品を作ろう」80年近く前のこの言葉。自分も胸に刻み
 たい。
  この作品はトーキー移行期に製作されたため、地方ではまだトーキー上映の設備が整っていなかったと
 いうこともあり、サイレント版とトーキー版が作られたとのこと。そして現存しているのはサイレントの
 短縮版のみということで、日活のサイトによれば実際は94分あったらしい。短縮版にカットされた場面の
 中にきっともっと原節子の登場シーンもあっただろうし、伊沢一郎演じる北村さんも写っていたんだろう
 な。二人のシーンなんかもきっと。見たかったなあ。本作付属の新潮45のカラーページに撮影時の写真が
 あったので貼っておきます。「魂を投げろ」でも共演していたけど、伊沢一郎さんと原さん、お似合いだ
 わ。
  この伊沢さんが被ってる帽子が、後で見つかる唯一の遺留物ですね。この三人のシーンがあったという
 のが、この短縮版の内容からは想像もできないので、すごくもどかしいです。見たい。また、今回初めて”
 活動弁士”の語りありで映画を見るという体験をしたのですが、案外すんなりと楽しめました。字幕にな
 いセリフなども喋ってくれているのは、元々の台本(当時の)とかがあるのかな。それともこの坂本頼光
 さん(まだ34歳。お若い)という方が脚色して入れているのだろうか。その辺がよくわからないので、冒
 頭の語り以外の書き起こしについては、字幕のみを採用してます。旧仮名遣い、ややこしいけど面白い。

 以上である。「正直」がテーマであるが、現代人はどう受け取るだろうか。おそらく、「背に腹は代えられ
ない」と言って、恒太郎の生き方を一笑に付すかもしれない。そのくらい時代は変わってしまったのではない
だろうか。なお、「生命の冠」は、「ヨハネの黙示録」に出てくる由。


 2017年4月17日(月)

 DVDで邦画の『ミスター・ミセス・ミス・ロンリー』(監督:神代辰巳、市山パースル=ATG、1980年)を観
た。ATG関連映画ということで観たが、間延びした作品だった。ところどころギャグをかましているようだが、
あまり伝わってこない。主演の原田美枝子が「刹那」というペンネームで脚本にも関わっているが、「若さ=
脆さ」を露呈してしまったようだ。監督を含め、何人かの中年男が彼女に振り回されている図式は窺えたので、
これでも構わないのだろう。
 物語を確認しておこう。例によって、<Movie Walker>のお世話になる。執筆者に感謝したい。なお、一部改
変したが、ご寛恕を乞う。

   〔解説〕

  ふと知り合ったひとりの女と二人の男の奇妙な生活を描く。脚本は刹那と『快楽学園 禁じられた遊び』
 の神代辰巳の共同執筆、監督も同作の神代辰巳、撮影は押切隆世がそれぞれ担当。

   〔あらすじ〕

  花森咲夫(名古屋章)という男に店をまかされている半崎市雄(宇崎竜童)は、深夜帰宅途中、電柱に
 手錠でくくられた女をひろった。女は島崎千里(原田美枝子)と名乗った。そして、二人の奇妙な暮らし
 が始まった。ある日、二人は新聞で「北川商産カズノコ倒産、北川社長は十五億円抱え失踪」の記事を読
 んで、お互いに同じ企みを持っていることを感じた。出版社に勤める三崎栄介(原田芳雄)も下村竜一郎
 (天本英世)と北川について話していた。「北川は無事ヨーロッパに着きました」と言う下村に、うなず
 く三崎。市雄はミスを犯し、国籍がないため店を閉めなければならなくなった。市雄のために花森と言い
 争う千里。市雄はその帰り、出会ったときと同じように、千里を手錠で電柱にくくって、捨ててきた。そ
 の千里を、今度は三崎が拾った。三崎が彼女を連れ帰ったとき、市雄が現われた。こうして三人は出会っ
 た。数日後、三崎のところへ下村がやってきた。「三崎さん、あんたがやった十五億円、全部札の番号、
 控えてあるそうだ。私はこの仕事から手を引く。餞別にいいネタをあげます。市雄って奴は、宗形ってい
 う、べら棒に金持ってる男を知ってます」と話すと去っていった。職のなくなった市雄と千里に、三崎は
 十五億円を使える金に換える手伝いをしないかと持ちかける。三人はその宗形八郎(三國連太郎)を探し
 はじめた。そして、千里はうまく宗形のところへ入り込んだ。三人の罠に宗形はジワジワと落ちていく。

 他に、草野大悟(峰山隆=花森の配下の男)などが出演している。三崎の本業は辞書編纂なので、百科事
典を何度も繰り返し読むことが仕事である。この点が面白い挿話だったが、全体にあまり絡んでいるとは思
えなかった。半崎や花森はいわゆるゲイだが、それらしくしようとするあまり、かえってそれらしく見えな
かった。もっとも、演技上はそれなりに楽しんでいたのであろう。


 2017年5月2日(火)

 DVDで邦画の『金閣寺』(監督:高林陽一、たかばやしよういちプロ=映像京都=ATG、1976年)を観た。三
島由紀夫の原作をアレンジした作品で、過去に『炎上』(監督:市川崑、大映京都、1958年)がある。小生の
後者に関する記憶では、主演である市川雷蔵の演技はその役柄に合わない感じがした。もっとも、かなり以前
に観たので、今観ると違った印象を受けるかもしれない。機会があれば、もう一度観てもよい気がする。
さて、当該作品であるが、監督の思い入れが強く反映している作品で、かなり観念的な映画に仕上がっている。
それはそれでATGが絡む作品らしいとは言えるが、人によってはまったく面白くないのではないか。小生はと
言えば、「まあまあ」くらいか。物語を確認しておこう。例によって、<Movie Walker>のお世話になる。執
筆者に感謝したい。なお、一部改変したが、ご寛恕を乞う。

   〔解説〕

  金閣寺を美の象徴として憧憬していた青年が、金閣寺の徒弟となってから、自らその金閣寺を焼失さ
 せるまでの心の屈折を描いた三島由紀夫の同名小説の二度目の映画化。脚本・監督は『本陣殺人事件』
 の高林陽一、撮影も同作の森田富士郎がそれぞれ担当。

   〔あらすじ〕

  溝口三郎(篠田三郎)は、吃音コンプレックスに悩み、心に暗いかげりを抱く青年である。彼は少年
 の頃から、「この地上で金閣寺ほど美しいものはない」と父(寺島雄作)に教えられ、金閣寺を美の象
 徴として憧憬していたが、父の死後、遺言によって金閣寺の徒弟となった。溝口には金閣寺と同じよう
 に自分の半生を支配している初恋の女性・有為子(島村佳江)という存在があった。少年の頃、有為子
 に話しかけようとするが言葉にならず、罵倒され、冷たく拒否され、以来溝口はひたすら有為子の死を
 願うようになる。ところが、やがて彼女は脱走兵をかくまい射殺されてしまう。彼女の美しい肉体は喪
 失したが、有為子は溝口の心の中に生きつづけているのだった。溝口は鶴川俊夫(柴俊夫)という友人
 を得、老師(内田朝雄)のはからいで二人は大学に進学した。そして彼は大学で、美青年・柏木(横光
 勝彦)を知った。心の底に暗い悪を秘めているような柏木に惹かれていく溝口は、彼の手引きで、次々
 と女と接し犯す機会を与えられた。しかし、その度に突如現われる金閣寺の幻に上ってセックスは妨げ
 られる。彼は人生を阻み、自分を無力にしている金閣寺を憎悪するようになっていった。柏木は金閣寺
 の永遠の美を批判し、溝口を背徳に誘う。その背徳は老師との間にも垣根を作ることになり、ついに老
 師も彼に背を向けた。寺の跡継になることで現世的に金閣寺を支配するという望みも失なわれ、鶴川の
 突然の死も彼には激しいショックだった。すべてに裏切られ、背を向けられた溝口に残されたものはた
 だ一つ、非現世的な美との対決 ──金閣寺を焼かねばならぬ ── ということだけだった。金閣寺に
 終末を与える決断が自分の手に握られていると思った時、溝口は初めて自由になった。マッチをする。
 燃えあがる炎、床を這う火、壁をよじのぼる火、猛火となって金閣寺を包む。中空を舞う火の粉、その
 中を金色の鳳凰がゆらぎ、消えていった……。

 他に、市原悦子(溝口の母)、加賀まりこ(生花の師匠)、テレサ野田(まり子=娼妓)、辻萬長(海軍
士官)、水原ゆう紀(洋館の令嬢)、新井純(赤いコートの女)、ダン・ケニー(ジャック=赤いコートの
女の恋人)などが出演している。テレサ野田を久しぶりに見た。彼女は、『八月の濡れた砂』(監督:藤田
敏八、日活、1971年)で、けっこう重要な役で出演していたはずである。かなり懐かしい感じがした。


 2017年6月19日(月)

 DVDで邦画の『地獄』(監督:神代辰巳、東映京都、1979年)を観た。煽情的な筋書でそれなりに面白かっ
たが、ゲテモノの域を出ないと思った。物語を確認しておこう。例によって、<Movie Walker>のお世話にな
る。執筆者に感謝したい。なお、一部改変したが、ご寛恕を乞う。

   〔解説〕

  姦通の罪によって地獄に落ちた母を追って、近親相姦の罪を犯して地獄に落ちる一人の女を描く。脚
 本は『禁じられた体験』の田中陽造、監督は『赫い髪の女』の神代辰巳、撮影は『沖縄10年戦争』の赤
 塚滋がそれぞれ担当。

   〔あらすじ〕

  孤児院で育ったレーサーの水沼アキ(原田美枝子)は、事故を起こして休養の旅の途中、生形幸男(林
 隆三)と知り合い、彼の生家、生形村を訪れる。そこにあった「金輪を回し、止まれば極楽、逆に戻れば
 地獄」と言い伝えのある笠卒塔婆に指をふれると、金輪は物凄い速度で逆回転をして地鳴りが起こった。
 足元が崩れ、そこに地獄が現われた。失神したアキの目に映じたものは、呪われたアキの出生の秘密と姦
 通の罪で地獄にのたうつ母ミホ(原田美枝子/二役)の姿だった。この村はアキの生まれ故郷。アキは生
 形竜造(西田健)と、弟雲平(田中邦衛)の嫁ミホとの間に生まれた不義の娘。竜造とミホは雲平に殺さ
 れ、アキは竜造の妻シマ(岸田今日子)によって孤児院に送られたのだ。竜造とシマの間には松男(石橋
 蓮司)と幸男の二人の兄弟がいた。暫くして、失神したアキを見つけて介抱していた幸男の兄松男は彼女
 を抱いてしまう。アキの出現で平穏を保ってきた生形家に亀裂が生じた。亡き妻ミホの面影を求めて執拗
 に迫る雲平、アキの豊満な肉体が忘れられない松男。シマはアキがミホの娘と知ると、村人を使って強姦
 させようとするが、間違って養女の久美(栗田ひとみ)が犯されてしまう。そして腹違いの兄妹と知りつ
 つ愛しあう幸男とアキ。「妹ひとりを地獄に行かせて、俺だけ逃げるわけにはいかない」……アキと幸男
 は最も罪深い近親相姦に、最も至純な愛のかたちを見出したのだ。久美は焼身自殺をとげ、雲平はアキの
 引く三味線の音に誘われるまま崖から転落死し、シマは土牢の中でミイラとなった竜造の頭を胸に抱き、
 舌をかみきって死ぬ。20年前のミホと竜造と同じ崖道を進むアキと幸男。二人を追う松男と村人達。その
 時、頭上の岩が落下して松男達を襲った。山小屋で兄妹は抱きあう。そして山小屋が湖へ落ちていった。
 湖をどこまでも沈んでいくと、やがて闇が少しずつ晴れ、三途の川が広がってきた。阿鼻叫喚の地獄をめ
 ぐるアキ。そこにはシマ、久美、村人達、竜造と雲平、幸男と松男がいる。ついにアキは獣と化したミホ
 と対面した。「母さん!」アキは叫ぶが母にはわが子の判別もつかない。母に声をかけた報いに、アキは
 足元から樹の幹に変っていった。そしてミホは桜の木になったアキに体当りをはじめた。ギシッと樹の幹
 が真二つに折れると玉のような赤子が産声をあげた。柔らかな朝の光のそそぐなか、その赤子は生を歓喜
 するように泣いていた。

 他に、加藤嘉(山尾治)、稲野和子(浪江)、岡島艶子(お芳)、広瀬義宣(赤塚作次)、笹木俊志(谷
地登)、志茂山高也(福田正一)、細川純一(名和太)、福本清三(メカニック)、木谷邦臣(トレーナー)、
高谷瞬二(車掌)、友金敏雄(アナウンス)、佐藤友美(尼僧)、和歌林三津江(老女)、丸平峰子(中年
女)、有島淳平(村人A)、小峰隆司(同B)、畑中伶一(同C)、波多野博(同D)、藤沢徹夫(同E)、
泉好太郎(同F)、藤本英之(松男の少年時代)、上田孝則(幸男の少年時代)、浜村純(懸衣翁)、毛利
菊枝(懸衣嫗)、金子信雄(閻魔大王)、天本英世(荼吉尼天/ナレーター)、大前均(鬼1)、原田力(同
2)、マンモス鈴木(同3)、大位山勝三(同4)などが出演している。なお、山崎ハコが「心だけ愛して」
を歌っている。映画のキャッチフレーズは「堕ちる前に見ておけ」である。


 2017年6月25日(日)

 SOULSが再開したので、書き込みを始める。初日なので、書くこともあまりない。6件の仕事を片付けたの
で、残った難物に着手するつもりである。さて、どうなるか。
 その後、何とかこなしたので、帰宅。
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